act 31
「ちょっと待つアル!」
右手には、スプーン。後一息で口の中にと消えて行こうとしていたビーフシチューは、神楽の一言で止まった
口を開けたまま、顔をしかめたのは、神楽の目の前、テーブルを挟んで座っている沖田だった
「いい加減食べさせろィ」
むぅぅぅと神楽は、口を尖がらせた。ちょっと待て・・との声。
コレで三回目となる。一度目は、火傷しないように、気をつけて。二度目は、こぼさないように、気をつけて。
そして、これが三回目の待ての言葉だった。
沖田は犬のしつけの様に、ピタリと寸前の所で止められる
いい加減にと言いたくなるのも分かる気がする・・
「お、美味しくない・・かもしれないアル・・」
台の上で、人差し指で円を描きながら、視線を合わさずぼそりとつぶやいた・・
あれから、もぅ一度、作り始めたビーフシチュー
何回も、何回も味見をして、隣で邪魔をしてきたり、後ろから抱き着いてくる沖田を何とか剥がしつつ作った
こんな経験初めてで、ドキドキして、食べて欲しいけど、食べて欲しくなくて
何回も深呼吸をした。
でもいざ口にはめようとすると、不味いって言われるのが恐くて、先に色々いいわけをあ〜だから、こ〜だからとつけて、待ったをかけた
自分の中では、一応得意なビーフシチュー。
この味は銀八も認めているほどだ。だからこそ、この料理を選んだ
神楽は、俯いているため、沖田の表情は見えない
見えない視界の中、沖田は柔らかく貌を崩した
「確かになぁ、おめーが料理を出来ると言う想像がつかねェ。」
俯いている神楽。その角度はさらに深くなる、その角度から、大きくなったほっぺが沖田には見えた
堪らなそうに、笑いを堪え、その口に、神楽作の特製ビーフシチューを放り込んだ
「あ・・・うめェ・・」
たった二言。完結に述べられた感想。しかし神楽はバッと顔を起した
大きく目をキラキラさせて・・
「本当アルカ?!美味しいアルカ?!」
満面の笑み。さきほどの表情は何処にいったかと思うくらいの・・
台の上に体を乗り出し、もう一度沖田の感想を・・と。
「あぁ。俺の口には合ってまさぁ」
台の上にべたりと顔をつけて、よかったアルぅぅと項垂れた
台の上に散らばる、神楽の柔らかい髪を手で、愛しそうにとかし、その手の温度を神楽は愛しそうに感じた
……To Be Continued…
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