act 3

沖田は、神楽にソファに座ってろ。そう言い、食器を出し始めた。
うん。神楽は頷く。銀時以外の男の部屋に入るのは初めてであり、神楽の体を固くするには十分だった。
間も無く、沖田は神楽の前にグラスを置く。神楽の体は今更ながらびくりと跳ねた。

「まるで猫だな。」
沖田の言葉に神楽は首をかしげる。
「毛が逆立ってますぜ。」
神楽は言葉を詰まらせた。しかし、よく考えなくても、今日会ったばかりの男に警戒をしないでいる方がおかしくないかと神楽は思う。けれど、その男の口にのせられてホイホイと付いて来た自分は、もう馬鹿以外の何者でもない。
さっさと食って自分の部屋に帰ってしまおう。神楽は思う。ビニール袋の中から、あらゆる食べ物を出す。
それを一つ一つ開ける。沖田に言って温めてもらう。沖田はその量に目を見張った。
そんな事を気にせず神楽はそれに箸をつけた。黙々と食べる神楽、面白いくらいに消え去っていく食べ物。
一体こんな体の何処に消えて行くのだ?沖田は興味深そうに神楽の体に目を通す。
神楽がその視線に気付き、眉間に皺を寄せた。早く食べよう。そう思ったのだろうか。小さな口いっぱい食べ物が詰め込まれた。頬を膨らませ、食べる。

「お前、よく食うなァ。」
思わず沖田は口に出していた。神楽は一度噛む事をやめ、言葉を出そうとした。しかし当然口の中には詰め込まれた食べ物。沖田を凝視したまま黙々と又噛む。ゴクン。喉に流す。喉をお茶で潤わす。やっとの事で口を開いた。
「うるさいアル。食べたらすぐに出て行くネ。それまで我慢するヨロシ」

そう言うと、更に口に詰め込んだ。
沖田はそんな神楽を興味深そうに又、見つめた。イタズラな視線で。
吸い込まれそうな空色は、ちらり、ちらり、男の方を見た。その度、男は口元をあげ笑った。

頭の所でくるくるとまとめられた髪。
其処から流れる珊瑚色。神楽が動くたび、ふわり、ふわり。舞う。小さな口で黙々と食べ続けるその様子は、小動物を連想させた。まるでハムスターだな、オイ。沖田は吹きそうになるのを堪えた。

周りの女は、何処で食べ様が、半分も手を付けない内に、もぅお腹一杯と残してしまう。
しかし、どうだろう。この目の前の女、自分の事は全く目に入っていないらしい。それどころか敵意さえ感じられる始末だ。相変わらず睨みを利かせ、目の前の食べ物に没頭している。

「付いてやすぜ。」
沖田が言う。神楽は何処?そう言いながら顔を触った。違げェ。沖田は言う。
むぅぅ。神楽は口を尖らす。其処に沖田の手が伸びてきた。神楽は顎を掴まれた。
へっ?。神楽はキョトンとする。その顔に沖田が近づく。そして神楽の唇のすぐ下、ぺロリと舌を使ってご飯つぶを舐め取った。

瞳を大きく広げ、唖然とした。
直後、下から上がって来た火照りは神楽の顔全体を包んだ。
「お、おまッっ!今何したアル!」
平然とする沖田に唇を噛み、くしゃりと崩した。飄々と笑う沖田。
「か、帰るアル!」
神楽は立ち上がる。沖田は反射的にその手を掴んだ。深い意味はない。反射的に、だ。
掴まれてる自分の手を確認し、更に頬を赤らめた。ぶんぶんと手を振る。沖田の手は離れた。
そしてドタバタを部屋から出て行った。まるで小さな嵐の様に…。

ガチャリ。隣の部屋が閉じられた音を沖田は聞く。
「もぅ、絶対に行かないアルぅぅぅ!!!」
ぶはっッ!思わず沖田は吹いた。

最初の印象は最悪。しかし、その印象も変わって来た。面白い奴が隣に越して来たと、顔が緩んだ。

......


「あいつは、危ないアル!金輪際近づかない事に限るネ。」
やっぱり、行くんじゃなかったと、神楽は唸った。
しかし、帰ってみると、待っていたのは、ダンボールの山。思わず溜息が漏れた。
明日からは、大学が始まる。唯一無二の親友。お妙に連絡をと携帯を探る。しかし、ない。
もう一度探る。やはりない。でも確かに上着に入れといたはず…。
落とした?いや、あいつの部屋に入るまでは、確かにポケットにその重みがあった。
どこで?いつ?あるとすれば上着を脱いでいた、あの少しの間…。

「携帯が無いアルぅぅ!」

隣までバッチシと聞こえた声。
その叫び声を沖田は聞く。くつくつと笑う。
指先でぶらぶら遊ぶ。ゆらゆらと揺れる、その携帯。
沖田総悟は見つめ、口を開いたのだった…。
「―――今頃気付いても、遅すぎやすぜィ。」


……To Be Continued…

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