act 1

「ふぅ〜〜〜コレで荷物は最後アル!はぁ〜疲れたネ〜」
ダンボールにまみれた、フローリングの上に、髪を流し、ばったんと神楽は背をついた。
ベランダから流れる四月の春風が、頬をそっとかすめる。
神楽はその風を受け、気持ち良さそうに空色の瞳を閉じ、鼻からその季節のにおいを吸い込んだ。

女子高を卒業後、父親である星海坊主に、中国に帰ってこいと言われたが、友達もいるし、
何より日本が好きだったため離れなかった。
それまで、居候していた、銀八の家を、大学生になるこの機会に家を出た。
お金は父親である星海坊主も送ってくれていたし、自分でもコンビニのバイトが決まり、
何とか生活の目処も立った。

念願の一人暮らし。神楽の心は内側からにじみ出るように跳ねていた。

スベスベした、綺麗なフローリング。便利な一階。ベランダ。浴室、リビング。
1LDKの部屋は、今の神楽にとっては、十分でもあり、やっと手に入れた自分の城でもあった。
すりすりと床に頬をくっ付ける。ひんやりした感覚がとても気持ちが良く、思わずうっとりした。

途端、隣の部屋から、数名の女の笑い声が聞こえた。神楽は怪訝そうに身を起しその壁を睨む。
甘えたような、こびる様な声は、その二つの高い音を混ぜるように聞こえてくる。
思わず神楽は、壁に耳を済ませた。

「総悟〜。こっち来てよ〜」
「沖田先輩〜早く来てくださぁい」

こいつは、一体何をしてるんだと、神楽は眉間にしわを寄せた
玄関には、お隣に持って行くはずの、折り菓子。確か隣は、二つ上の男の人だと聞いている
しかも一人暮らし・・。神楽はその折り菓子を見つめながら大きなため息をついた。
それにしても、よく聞こえる声。まるでその見た事のない男を取りあう様な猫なで声が聞きたくも
ないのに聴覚を刺激してくる。どんだけ壁が薄いんだ!といい加減神楽はイライラしていた。

あいも変わらず、甘く笑う声。部屋の向こうで何がどうなってるのかなんて考えたくもない。
目を細め、その壁を空ろな目で見る。そしてゆらりと立ち上がった。

そして、ダンボールから今しがた出したばかりの、紐で強く結び固定された
雑誌を掴んだ。


――――それを,壁に向ってぶん投げた。

凄まじい破壊音を出し、思わず家が揺れそうだった。いや、揺れた。
神楽ははぁはぁと肩で息をする。当たり前だが、音は止んだ。甘ったるい声も、こびる高い声も…。
それもそのはず、壁の向こう側から、凄まじい威嚇音が響いたのだ。
神楽の腰までの長い撫子色の髪はまるでふわふわと踊るように舞い、やがて腰に落ち着いた。

神楽は、その小さなホッペで大きく息をすぅっと吸い込んだ…。

「うるっさいアル〜〜〜!!常識を考えルネ〜〜〜!!」
壁越しに、響く神楽の声。
肩でハァハァと息を吐き出す。そして、ふんぞり返りかえった。
ふふん、どうだと自己満足も終わり、さて、荷物の手ほどきをしようとした所、
隣の部屋から、ガチャリとドアが開く音が聞こえた。

その音が止むか止まないかの所で、ドンドンと玄関の向こう側から鈍い音が聞こえてきた。
誰かは見た事ないが分かる。見た事ないが分かる。
隣のあいつだ――――。

神楽は勢いよくドアを開けた。

そこに立っていたのは、さらさらのハチミツ色した髪の毛。人を引きこむような深い緋色の瞳。
機嫌が悪そうで、尚、その整った貌…。思わず神楽は唖然となる。

「ずいぶんな挨拶じゃねーか。俺の部屋まで開通させる気か?」
腕を組み、ずいぶんと不機嫌な面。

神楽は、それに負けず劣らず、綺麗空色の瞳を、カッと広げた
「お前こそ常識のない奴ダロ?昼真っから、何してるアル。サイテーヨ」
同じく腕を組み、睨み付ける。

男の瞳が自分を射抜く様に突いて来る。
それに負けてたまるかと神楽は、睨んだ。

「お前名前は?」
「名前を聞くときは、まず自分から名乗れって聞いた事ないアルカ?」
一瞬、ピクリと男の顔が動く。
「沖田総悟でさぁ。てめーは?」
「かぐら」

再び沈黙になる。神楽は、玄関口にある、折り菓子をぐわっと掴んで、そのまま沖田にドンと突きつけた。
「コレから、どーぞ宜しくお願いしますヨ!後、ヤりたければ、外にでも行ってください。わかりましたか?」
出来るだけ無表情に近く神楽は頑張った。しかしその顔は引きつる。仕方なく
その顔の表情を自由にしてやると、やはり感情がありありと表情に出た。

そして唖然としている男をそのままに、再び勢いよく、そのドアを閉めた。


........

「性格の悪い女でさぁ…」
「性格の悪い男アル…」

――――それが、お互いの第一印象だった。


……To Be Continued…

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