act 29

口の中、既に味と言う言葉が影も形も消え去ったガム。それを何度も何度も噛む。
舌を軽快に使いぷくーと膨らませた。どんどん大きくなる。パン。割れた。口の周りにべったりと付く。
舌を使って、それを集める。――――又、噛む。

畳に付けられた背を起す。肘を付け、掌に頭を乗せ、障子の向こう側を見た。
雨はまだ止みそうにない。顎が鍛えられて丁度いいでさァ。などと思うのは沖田だ。
新八や銀時の読みどうり、土方と共に回った巡回を追え、一息付いていた。
実際の所、隊長と言う肩書きの元に集められた書類の整理をすると言う仕事があったのだが、どうにもやる気が出ない。

原因については分かりそうなものなので、あえて言わない。
沖田は、物音一つしない、隣の部屋に繋がる壁を見る。当然だが誰もいない。ゆえに物音も無い。

逢いにいけばいいじゃねェか。
何度となく土方に言われた。
言われなくても分かってんでィ。沖田は思う。
仕事が非番の日。沖田は必ず逢いに行った。少々はにかんだ様な神楽の顔が新鮮だった。
そっと手を絡めてやると、誤魔化す様に怒鳴ってきた。が、その手はしっかりと握られたままだった。
こんな新鮮さもいいかもしれねェな。思ったのは初めだけだった。
自分の職業、更に隊長と言う肩書きゆえ、忙しい時はとことん時間がない。
いつもの昼寝。そんなものが出来ない程に。深夜会いたくて、万事屋まで行く。当然、その灯りは消されていた。
焦燥感が自分を襲う。いつもの様に…銀時の手前それは出来なかった。

昼間、時間がなく、イライラする。
ここら辺でやっと、あの日常が自分にとって大切なモノになっていたと気付く。
逢いたい、逢いたい、逢いたい。思いは制限なく膨らむ。
しかし、生活のリズムが合わない。――――逢えない。

逢いたい。逢いにいけばいい。そりゃそうだ。何も遠い事はない。
でも、もし、逢う事が出来なかったら?探す?俺が・この俺がか?
最後の最後で変なプライドが邪魔をした。土方の手前、意地になっている自分が居た。
女に逢いにいく。自分がそこまでするのか?
逢いてェんだろィ?奥の奥、自分が問う。しかし、最後の一線。新撰組、一番隊隊長、沖田総悟。レッテルが邪魔をする。
馬鹿じゃねェの?奥の奥、自分が言う。

確かに。馬鹿と思う。ただ今の今まで、作り上げてきた、沖田総悟が一人の女で壊れて行くのも、又恐かった。
惚れてる?あぁ、惚れてらァ。狂うぐれェにな。自分でも訳わかんねェ。
誰に見られようが、女にうつつを抜かしていると言われ様が、関係ねェぐれェ欲しい自分が居る反面、部下に示しがつかないと思う自分が居る。

長いため息を付いた。
この後、今日ならばまだ時間がある。いや、実際は無いのだが、書類がたまるだけの事で大した事ではない。
行くか…。今逢わなければ、いつ忙しくなるか分からない。
ココロに穴が空いてる事をいい加減認めやがれ。何もかもどうでもいいぐらい逢いてェ。そう思ってる事に、正直になりやがれ…。沖田総悟は問いかけた。

又、息を吐いた。長く、長く…。
「行くか。」
逢えなくても、…それはそれでいいじゃねェか。待ちぼうけをくらうだけでェ。
そう、沖田は立ち上がる。
障子をスパンと開けた。刹那、塀の所に影が見えた。見慣れた傘に、見慣れた顔…。
その影は塀から一直線に自分へと飛んだ。いィ!!マジかとビビった。
自分の胸の中、飛びついてくる女。グラリ。反動で体がよろけた。そのまま後ろに倒れる。咄嗟、手を付く。
掌に衝撃が響いた。それもそのはず。女は全体重を自分に預けるように抱きつき、その細い手を首に巻きつけていた。

誰かって?。んなモンわかってらァ。俺が唯一近づく事を許した女。この世の中でたった一人欲しいと思った女…。

「逢いたかったアルぅぅ!!」
神楽は沖田をぎゅうっと抱き締めた…。




……To Be Continued…

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