act 28

はぁぁぁ。

――――本日五回目。神楽の口からため息が漏れた。
外を見れば、しとしとと雨が降っている。長いふわふわの髪をくるくると自分の指に巻きつけはしゅるると引っ張る。またくるくると撒きつける。ため息をだす。六回目だ。
「だぁぁぁ!逢いたいなら逢いてェって言えばいいじゃねェか!そんな辛気臭せェ面ばっかしてんじゃねェ!こっちまで鬱になっちまわァ!」

銀時は逆さまに持っていた新聞を我慢なら無い様子で机に叩き付けた。
神楽はツーンとそっぽを向き又窓辺に視線をやった。銀時のその横で今しがた食器を洗い終わった新八がエプロンを脱いで、ソファに座った。
「神楽ちゃん。遊びに行ってこればいいんじゃないかな?今日は雨も降ってるし、街の巡回もそう遅くならないと思うよ。それか電話してみれば?携帯の番号教えてもらったんでしょ?」
新八が、銀時と異なり、物腰柔らかく、言った。
神楽は口を尖らせ、窓辺に立っている。
「言いたい事も言えてねェんじゃ、その内疲れちまわァ。」
銀時は息を吐きながら言葉を口にした。

アレから…。屯所内の生活から、普通の日常的な生活を取り戻し、はや一ヶ月。
あの時の神楽のココロのもやもやは、現在進行中だ。一緒に暮らしていた時は、沖田がどんなに忙しく、どんなに深夜に帰ってこようとも足音で分かった。自分の隣の部屋で、息をしている。それだけで嬉しかった。隣に行くだけで声が聞けた。
離れて暮らしているだけ。別に遠距離でもなければ、誰に反対されている訳でもない。
ただ、それぞれに生活のリズム、スタイルとある。離れて暮らすと、それが浮き上がってくる。
仕事が遅くなる時なんてしょっちゅう。電話をかけたい。声が聞きたい。
でももしかすれば寝ているかもしれない。まだ仕事をしているかもしれない。それをお互いに考えた。
考えるほどに、身動きが出来なくなる。もしかしたら。今、仕事中。もしかしたら、今、寝てるかも…。

もしかしたら…。
何も出来ない。逢いたくないのか?
まさか、逢いたくてたまらない。一緒に暮らすうちに、いつの間にか、それがお互いの日常になっていた事に今、気付いた。

「だって、仕事中かも知れないアル。」
この一ヶ月。もしかしたら。だって。神楽の口癖になっていった。
全く逢えないわけじゃない。ちゃんと逢える日もあるのだ。だけど、それだけじゃ物足りない…。
扉越しに、じゃあね。閉められたドアの向こうが恋しくてたまらない。

うじうじとしている神楽に、銀時は口を開く。
「だって、もしかしたら。仕事じゃないかも、起きてるかもしれねェ。何でおめーはそう考えられねェの?」
神楽は、顔をあげ、銀時を真っ直ぐ見た。
「我侭だってなァ。惚れた女のモンなら幾らでも聞いてやりたくなるもんじゃねェのか?」
神楽は、目を見開く。右へ左へ、視線を泳がす。
新八は、コクリと頷いた。
「もうちょっと甘えてもいいんじゃないかな?きっとその方が沖田さん喜ぶと思うな。神楽ちゃん。そんなに良い子じゃなくてもいいんだよ。」
そう神楽を見つめ、笑った。

「そんなもん…。アルカ?」
神楽は、若干、口を震わせる。

『そんなもん、そんなもん。』
新八と銀時の声は重なる。
神楽は俯く。そうかな?そんなもん…。

「行ってくるアル!!」
愛用の傘を片手に、キラキラの笑みを残し、神楽はドアを勢いよく開けた。
神楽の背中が見えなくなる、行ってらっしゃい。そうドアはパタンと閉められた。

銀時と新八は顔を見合わせる。
思わず漏れた笑みを、走っていく神楽の背中に投げかけた…。



……To Be Continued…

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