act 21

「トッシー。皆してぞろぞろと何処に行くアルカ?」
すき焼きを十分に堪能できた神楽は、せめて後片付けはキチンとしようとせっせと働いていた。
やはり人数の多い分鍋の数も半端ではなく、飛び散った卵などを丁寧に神楽はふき取っていた。

すると其処へ土方が来た。
神楽は先ほどからぞろぞろと居なくなった隊士が大きなテレビがある広間に行っているのを見て疑問に思ってた思いを言った。すると土方は麦茶をグラスに注ぎながら視線を神楽に移した。

「今から映画を見るんだよ。」
「何のアルカ?」
「えいりあんVSやくざ。」

あの映画かと神楽はふーんと興味のない様な返答を返す。
土方は一瞬、どれだけこの映画が素晴しいかを神楽に思わず語りそうになったが、息を吐く事でそれを止め、背中を向けた。
あの大画面で映画…。
少しだけ後になって興味が沸いた。さぞ迫力があるのだろうと。そういえば沖田の姿も見当たらない。自室か?
それとも土方に無理やり見せられている可能性も、もしくわ自分から見てる可能性も…。
ふむ…。神楽は考える。どうせそろそろ片付けも終わる。広間を覗いてみようかと足を向けた時、食堂の隅っこの方に紙袋が見えた。
何だと神楽は見てみる。キラリと目を輝かせ、中を探る。
にやぁと神楽は笑うと、その紙袋をしっかりともち、皆のあつまる広間にへと足を向かせた。

案の定広間では、只今 『えいりあんVSやくざ』の予告が始まっており、早くも土方と、10番隊長の原田は興奮気味だった。神楽は視界をめぐらすと、土方の隣、先日座っていたその真正面の特等席に沖田は、あまり興味もなさそうに座っていた。
隣の男をげんなりと見つめ、ため息を吐く。時折土方はそのテンションを沖田にも要求していたが、当たり前に沖田は無視。
神楽はテテテと土方と沖田の前に来るとそこはテレビの前でもあり、大画面が神楽の姿で見えなくなった所為もあり、土方は目を吊り上げた。
「退けよテメー!見えねェだろうが!」
「こんなのより、もっとずっと面白いのがアルネ!」
神楽はにっこりと微笑んだ。土方はやかましいィィと神楽を睨んだが、神楽はそれを無視。
沖田は土方と神楽のやりとりをただぼーと見つめている。
とりあえずちっとも興味がないこの映画だろうが、神楽が言ってるものだろうが、どちらでもかまわない。
いや、むしろ正直自室へ帰りたい。神楽付きで…。などと考えていた。

そこで、自分の出した案をいい考えだと再び考え直した。
確かにココには今隊士が集まって、今から映画を見ようとしている。
うるさいはずの土方も映画を見たくてたまらないらしい。ならばコレはチャンスだと。神楽を部屋に連れ込んでもガタガタと文句は言われない。更に言えば、今訳の分からないことをほざく神楽をこの広間から連れ出せば、土方も感謝こそすれど文句は言わないはずだ…。

そこまで考え沖田は行動に移す。
「チャイナ、それは今度見ればいいだろィ、とりあえずこっちに―――。」
「嫌アル!私は今大画面で見たいアル!」
「何言ってんだオメーは!今すでにもぅ『えいりあんVSやくざ』は始まってんだ。戦いの火蓋は切って落とされてンだよ!」
「そんな火蓋は私がもう一度繋ぐアル。」
「しばくぞコラァァァ!!」
沖田の声も全くの無視。更に言えば土方の声も無視。周りの隊士はただ唖然とやりとりを見つめた。

息も上がり、土方はとりあえず諦めた。神楽の言うDVDを見て、即効でおもしろくねェとぶちきって再び続きから見ればいいと…。おきたに居たっては、もはや諦めた様子でそんな二人を早くから眺めていた。

神楽はふふんと胸を張り、DVDを取り替える。

「オイ、嬢ちゃん、一体なんのDVDだ?」
確かに。沖田も同感だった。土方は『隣のペドロ』だったら許してやんねェ事もねェが。と言っている。
「違うネ、題はァ―――。」

突如、一人の隊士が走りこんで広間に入って来た。その顔は、顔面蒼白と言う四文字がひどく似合っている。
きょろきょろと見回し、神楽の足元にある紙袋を見つけ、その目と口とを大きく開けた。
しかし神楽の手の中には空のケース。大画面は、再生とともに動き出す。


「だ、駄目だァァァァ!!!それはァァァ!!!」

皆は一斉に男の方を見るが、その時にはすでに泣きそうな面になっていた。
特に沖田の瞳は確実に避けて…。
そんな中、神楽だけは一人平然としている。
「絶対面白いアルヨ。だって私と一緒ネ。『チャイナ服ときかん棒』!!マフィア物ネきっと!」

....

静止した。
時が止まったのだ。まるで一時停止ボタンを押したように…。

神楽は、目の前の大迫力の大画面のまん前に立ち、ただただ、口を開けてボーぜんと見ている。
土方はつけようとして咥えていたタバコを、口から落とす。その隣の沖田は、当事者の男の方を振り返っていたが、再生された音声と共に勢いよく振り返り、同じように静止している。

隊士達は皆、画面に食い入るように静止している。
当事者の男は動く事もどうする事も出来ず、その様子を見ている。

大迫力の大画面には、あられもない女が映し出されている。
何故神楽が静止しているのか…。こんなにはっきりアダルトビデオと言うモノを見た。
それも確かにある。しかしそれだけではなかった。

画面に映し出され、今まさに確かにマフィアの男達に犯される女は、まるで自分だった。
神楽より、よりそのいい肉付きに女を匂わせ、身に纏う赤いチャイナ服。
白い肌、髪はまっ黒。だがその艶のある長い髪のてっぺんにある二つのおだんご。
綺麗顔と言うべきその女優は、その肌を晒され、男の餌食になっているところだった。
目を半目にトロンとさせ、前から後ろから、イクイクと腰を振り続けている。
神楽より大きな胸は惜しげもなく揺れ、それを男が掴み、咥える。
大音量で、女の高く嬉しい悲鳴は響きわたる。

どう解釈しても、神楽を意識してるのは一目瞭然だった
思わず神楽はリモコンを落とす。
そしてヨロっと体をぐらつかせると、リモコンを踏んでしまい、体制を崩す。
それにいち早く気付いた沖田は神楽を抱き止めた。
神楽はまだ食い入るように画面をひたすら見続けている。
画面の中の『神楽は』M字開脚をし、今まさに絶頂を迎えるところだ。
長い黒髪を振り乱し、男の背に爪を立て、震え、叫ぶ、喘ぐ、喘ぐ、喘ぐ、高く、喘ぐ。
刹那、女優の体は、びくりとハネ、何度も、何度も、打ち震え、唇を開け、甘く乱す。
揺れる乳房は大きく揺れ、撓る肢体。

何人もの男の生唾を飲み込む音が、リアルに響く。
中には、前かがみになりながら、広間を出て行こうとする。
それを沖田の一言が凍らせた。

「コレで抜いた奴ァ殺す。」
そんな無茶振りな…そんなすがるような目で隊士は視線を落胆させる。あくまで沖田には視線を合わせようとはしない。
しかし、もう準備がととのってしまった自分の下半身は脈を打っている。
沖田は神楽をゆっくりとソファへと座らせた。神楽は相当ショックが大きいのか意識をこちら側に戻せていない。
ゆっくりと沖田は隊士に近づく。
「今から道場へ集合だ。その下半身に集めた腐った熱を無理やりにでも冷ましてやらァ。全員な。来なかった奴ァ、後(のち)、一ヶ月、俺が稽古をつけてやらァ。」
沖田は全身にどす黒い殺気をまとったまま、笑った。
一番隊でない隊士たちは、土方と、原田をすがる様に見た。
しかし2人は同じように額を掻くと、顔を見合わせ、ため息を付いた。
『――――行って来い。』

そんなァァァ!!!
涙をボロッボロと流しながら、項垂れ、道場に足を向ける。
沖田は、一人の男の前に立つ。
「オメーは、特別でィ。みっちりこれから一ヶ月俺が付きっ切りで稽古つけてやるよ。大丈夫。心配すんな?何回でも逝かせてやらァ。テメーが抜いた分な。汚ねェ白の液体じゃなくて、血反吐はかせてな…。」
そう笑うと、首根っこを捕まえ、男をズルズルとひこずっていく。

もう何も反論できない男は、こちら側ではなく、あちら側へと意識を飛ばせた…。

.....

「オイ、大丈夫か?しっかりしろ。」
土方は原田と、誰も居なくなった広間で神楽の顔の前で手をヒラヒラとさせる。
しばらく反応が無かったが、はっと気付いた神楽に、土方と原田は謝る。
「まぁ、なんつーか悪かったな。俺からもちゃんと指導しとくからよ。」
誰が見ても神楽を意識して見ているものだと気付いているのは、この二人もで、一応神楽を気遣う。
しかしこんな場合、一体どのように声をかければいいのか、イマイチ分からないのも確かで…。
困った様に神楽を2人は見るが、神楽の反応は心配してるものとは、少々違った。

「ねェトッシー。アレがHってものアルカ?」
「ハッ?何いってんのお前?」
「男は気持ちいアルカ?女の人は気持ちいいアルカ?」
「い、。いやちょっとおちつけ…。」
無垢な瞳で、とんでもない質問を投げかけられた土方は、とりあえずアンタが落ち着けと原田に言われる程だった。
「イクって何アルカ?何処にハメてるアルカ?あたしちっとも分からない、分からないアルヨ。」
考え込むような神楽を他所に、頭をクラクラと土方はさせた。
うむむと考えながら立つ神楽の真面目な背中に、土方と原田は、呆然と魅せられた。

そして道場からは夜中遅くまで、悲鳴が絶えなかった。
助けてくれと道場を出ようとすれば、道場の入り口に竹刀がめり込んだ。次は当てるぜ?との沖田の問いに、とっくに冷めた自分の下半身まで鳴き声をあげた。

この少し後、当事者の男の口からもう2、3人の名前が挙げられ、芋ズルしきに沖田の前に晒され、可哀想な運命を辿る事になる…。

.....

海の家。
新撰組、一番隊隊長、沖田総悟、副長、土方十四朗は水着姿の女に群がられていた。
二人とも隊服を脱ぎ、スカーフも着用していない。ベストとシャツ姿になり、それでも暑そうに腕の袖をまくっている。囲う女の頭上からは、晴天が覗き、太陽がコレでもかと照りつけていた。
土方は青筋を立て、退きやがれェェと言いたいのを我慢するような面で女を自分の体から離していた。
沖田はコレ以上ないほどの面倒くさそうな面で、同じように女を剥がす。だがすぐに別の女が腕に絡みついてくる。全くもって終止がつかないような状態になっていた。

そんな二人を頬を膨らましながら口を尖らせ、店内で、木で作られた椅子と台に腰かけ、しゃりしゃりと注文したカキ氷を神楽は食べていた。暑い日差しから守るような店内は旋風機が何台も頭上に取り付けられており、首を休む暇もなく動かし続けていた。
目の前に広がる海からの潮の匂いは鼻腔をかすめ、それだけで少し涼しくなるような気がした。

店内はまだ朝早いというのに客が溢れている。男ずれの客、女だけの客。様々だ。
せっかくの海だと言うのに目の前の男に群がる女の群れで、ちっとも海が見えないじゃないかと神楽は益々不機嫌になった。

「まぁ、チャイナさん、そう膨れるな。俺もこうなると思って避けてたんだが、夏風邪で来る予定だった奴が倒れちまってだな。仕方なかったんだ。」
神楽は、別に何も言ってないアルと、目の前に座り、同じようにシャリシャリとカキ氷を食べる近藤に拗ねた様に言った。
カキ氷のスプーンを口に咥えたまま、その視線を沖田へと注ぐ…。

事の起りは、朝も朝、神楽が寝ていると廊下から、近藤の声が響いたことから始まった。
まだ寝ていたであろう土方と沖田が眠そうに自室から出てくると、近藤は二人にすがるように言葉を出し始めた。
その話を障子越しに神楽は聞く。
海の家の警備に行く隊士が夏風邪で寝込んだと言うのだ。
人が多いゆえ、トラブルもおきやすい。何がおこるか分からない事に加え、人数も足りない。今日の勤務は夕方からの二人にとって気が遠くなるような話しだった。特に沖田に居たっては、夕べの出来事から自室に戻ったのは、明け方に近かった。それを数時間で起されたのだ。
しかし、他ならぬ近藤の頼みを断るわけにもいかず、承諾した。

近藤は、神楽にも声をかけた。
店内でならば、熱い日差しからも体を守れるゆえ、着いて来ないかと。神楽は喜んだ。
傘の代わりに麦わら帽子を、チャイナ服の変わりに、お妙に貰った、薄地の真っ白なワンピースを…。
ただ、いつもと違う格好を沖田に見せるのは恥ずかしく、更に一緒に行くという事も言わないまま、沖田が土方と出た後、近藤と一緒に来たのだ。

しかし着いてみると、沖田に群がる女に唖然とし、ふつふつと嫉妬が膨らんだ。せっかくのワンピースも見てもらえないと神楽は拗ねたのだ。
沖田がモテると言うのは頭では分かっていたが、こんな風にアリアリと見せ付けられるは初めてであり、やっぱり不安な気持ちがこみあげる。近藤は神楽の機嫌を伺うようにカキ氷を奢ったが、そこに出くわした沖田と土方の姿は逆効果と言えた。参ったなと頬を掻く近藤を見た神楽はため息をはき、立ち上がる。

「ゴリ、カキ氷ありがとうアル。ちょっとだけ散歩に行くネ。大丈夫、無謀な事はしないヨ。」
近藤は神楽を心配そうに見上げるが、神楽は笑い、ゴリの肩をポンと叩き、店内を出る。沖田は、まさか神楽が来てる事とは思いも寄らず、その影を気にも止めないまま神楽はその横をすり抜けていった…。




……To Be Continued…

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