act 12

あいつ…、どんな格好してやがった…?

車の前で俯くあいつ見ながら、ドクリと音がなりやがった
必死に濡れたTシャツで隠そうとしてやがった。思わず目を背けそうになったが
コレ以上こいつをさらしたくねェ…。そう思う感情の方が強かった

だからと言って声をかける事もできやしねェ。
第一、何を言葉にしたらいいのか分からねェし。

だから隊服上から被せた。
部屋に帰ってもあの姿が脳裏に焼きついて離れねェ、一体どうしちまったんだ俺は…。
あいつを犯そうとした自分、あいつを今見たく助けた自分。
何をしてェのか、これっぽっちもわからねェよ

そんな事を考えてると、足音が聞こえた。そしてその足音は俺の部屋の付近でピタリと止まる
そして、しばらく動かなかったが、シルエットが浮き上がり、あいつだと分かった
そのまま意味もなく、そのシルエットを見てると、丁度真ん中でピタリと止まりやがった
小さく言われた「ありがとう」の言葉…

俺は反射的に呼び止めた。勝手に口から出てきた言葉に俺が唖然とした。しかし呼び止めた以上
会話を進めなければならない。俺は、障子に手を掛けた

あ、開かねェ…。
何してやがる…。反対側で必死に開けまいとしてるらしかった
むきになる自分。そして直ぐに気付く。
外側の障子から出れると…。あいつが、必死に開けまいとしてるのを確認して
スパンと開けてやった。

慌てるあいつの声に思わず吹きそうになる。
俺は「バーカ」と軽く悪態を付きながら、アイツを見て、そして固まった
....

普段、自分が纏う隊服を、こいつが着るとこうも別のモンに見えてしまうのかと沖田は唖然とした

ぶかぶかのサイズに、大きい面積を表している太股は白く、傷一つない。
恥ずかしそうに足をモジモジとしながら俯いている様を見て、不覚だが思わず喉を鳴らした
隊服を恥ずかしそうに引っ張ろうとするが伸びる訳もなく、ただただその白く小さな手が可愛らしいと思ってしまう俺はどうかしている

その時、後ろからの足音に気付く、そしてその音に気付いたのはコイツもだった様で、後ろを振り返っていた
おれは何やら考える前に、まず手を出し、こいつを引っ張り部屋の中に引き寄せていた
シルエットに浮かばないように、自分の中に無意識に隠す。そして外側の様子を見てりゃ、案の定土方と近藤さんが通っていた。


ふと意識を戻せば、自分の腕の中に居るのは、あのチャイナだ。
何故自分がこんな事をしたのかが今更不思議に思う、見られたく無かった。そう言えば簡単に終わるが、どうにも認めたくない自分が居るのも確かで…。
ふわりと香るチャイナからの匂いが鼻を掠めた。抱いている体は、自分が想像したよりもずっと柔らかく小さい。

先程のチャイナの水着姿が脳裏に浮かんだ。こいつは自分が女だと言う事を自覚していないのか?
この屯所内で、女は、食堂のおばちゃん以外には自分だけであると認識していれば、もぅ少しマシな行動が取れそうだと考える。

今回の事にしても、別の隊員が見つけていれば、必ず夜のオカズにされていただろう。それは断言出来る。

自分の置かれている環境をいまいち理解していない神楽に、沖田は腹立たしさを覚える。
勿論、その感情の中の大部分を占めているのが、嫉妬と言う二文字の漢字だと言う事にまだ気付いているのか居ないのかは分からないが…

どんな格好をして居るとの声に、あいつは俺が隊服をくれたからと訳の分からない回答を返してきた
この馬鹿野郎に、余計腹が立ち、思わず声を荒げた。
すると静まり返った空気の中、鼻を啜る音が聞こえた。

何となく嫌な汗が背中を伝うと、その音は、くっきりと耳の中に聞こえてきた
鼻を啜る音と一緒に小さな体がひくつく。
俺の体にピタリとくっついて居たその体をチャイナはやんわりと剥がす。視線を伏せ、俯いたまま相変わらず鼻を啜りながら出て行こうとする。

その手を咄嗟に掴んだ。前に行こうとするチャイナの体が、ピタリと止まる
「…っ……悪かったナ…どうせ…役に立たないァル…」

左手を沖田に引かれ、その顔は俯きながら前を向いている。
体を震わせ、早く離せと言わんばかりに、その左手をぶらんとだらけさせていた。
イライラとした感情が薄れ、まずったと言わんばかりに頭を掻いた。正直自分が腹を立てたのも意外だったし、神楽が泣くなんざ、考えてもない事だったのだ

「別に、洗ってくれた事には俺ァ感謝してる。ただ…」
そこで言葉を切ってしまい、その先を言う事が出来なくなってしまった
元々、その先にある筈だった言葉を裏付ける感情の正体も曖昧だったのだが。

バツの悪そうに沖田がしていると、ゆっくりと神楽が振り返った
その顔に、思わず沖田は胸を高鳴らせた。赤く充血した様に、それでも澄んだ瞳の輝きを失わせる事ない空色から零れている雫があまりにも深く、綺麗と思ってしまったため。

又もや感情に流され、その手を引き、その小さな体を自分の中に閉じ込めた
ただ、今度は誰かから身を隠すためでもなく、その姿を誰にも晒したくなかったためでもなく、只純粋に抱き締めたい…そう思ったからだった。
ゆえに、その感情の行き着く先を、自分はそろそろ認めなければならない…そう思う沖田だった

...

回された腰の手が、神楽がほんの少しピクリと動いた事で、まるで逃がさないと言う様に更に強く絡まった
どうしたらいいのか神楽は分からなくなってしまい、零れる涙を止め、自分の動きをピタリと止めた
先程自分の目の前にあったベストが再び自分の頬に当たる。
行き場の無い手は、其処にあった沖田のシャツをくしゃりと掴んだ。

神楽の感情的には、それはもぅ盛大に心臓の音をバクバクと鳴らしているつもりだったが
聞こえてくる自分の中からの音は以外に落ち着いていて、トクン…トクン…と規則正しい音を刻んだ
自分の耳に当たっている胸の音を聞きたいと耳を済ませると、ピタリとくっつけられた耳から
こもるように声が聞こえて来て、思わず顔を上げた

「別に泣かせるつもりじゃ…。すまなかったな…その、傷つけちまって…」

思わず口をポカンと開けて見たのは神楽だ。
よもやこの男から、この様な台詞が飛び出してくるとは世界もとうとう終わりに近づいたか…
一瞬そう思ったが、この今の自分の状況を確認する事が頭で出来ると、確かにありえると思った

右手は肩を包むように、左手は、華奢な腰を包むように回されている
神楽は、再び恥ずかしくなり、沖田の胸に頭を埋めた

「べ、別に…傷ついてなんか…」
そう言いかけたが、やはり自分は傷付いていたと肯定し、言葉を続けるのをやめた
それよりも、この自分に起きているありえない状態を何とかしたいと神楽は思う

別に、本当は嫌ナンかじゃないんだヨ。
それどころか…本当は、もっと一緒に居たい。この回された手が嬉しくて、鼻を掠めるコイツの匂いが恋しくて。
抱き締められてる自分が、幸せで…あたし、沖田の事、好きって思った
目を瞑って、自分の奥深く、トントンって戸を叩いて自分に聞いてみたけど
あたしの中に居る、素直で可愛いあたしも、素直じゃなくて可愛くないあたしも
二人とも、『すき』 ―――― そう答えた。

ただ、ただね、恥ずかしいダケ。ただそれダケ…
そこんトコ、そんな乙女心…ちゃんと伝われコノヤロー…



……To Be Continued…

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