act 11

ザキは勿論の事、沖田、近藤、土方に限っては、吸っているタバコをお約束の様にポロリと落とした

俯いて、恥ずかしそうに神楽は、水着を何とかTシャツで隠そうと胸の前でギュッと握り締めている
が、しかし、元もとTシャツは濡れて、水着の面積など隠せるわけも無く、ビキニから漏れた真っ白の素肌がお日様の下に晒されていた。
直前まで、もはや水遊びと化していた車を洗うという作業の為、淡いもも色の髪からは、透明の水玉がポタリ、ポタリと早いスピードでアスファルトに模様を作った

抜ける様な白い肌にも、大小の水玉が肌の上にアートを彩る

そんな中、俯く顔だけは、さくらんぼの様に真っ赤に染まっていた。前髪からも、その雫は一滴、また一滴と落ちる。額から流れるように伝う雫がまつげの上に乗っかり、やがて重くなり瞬きと一緒にはじかれた。

全員、開いた口が塞がらず、目の前の光景に見入っていた。何故そんな格好をしてるのか?何故車を洗っているのか?何故そんなにびしょ濡れなのか…。
言いたい事は色々あるけれど、上手く言葉が出てこない
神楽はと言えば、逃げるにも足が動かず、身動きが取れないけれど恥ずかしさのあまり話すことも出来ない。
先ほど、ちょっとだけ沖田に見てもらいたい…などと思っていた可愛らしい乙女心は何処かへ吹っ飛んでいき、粉々に散ってしまった。

沈黙が続く中、突如神楽の視界が黒く塗られた。暑苦しく、思わずその中から首を勢いよく出すと、
自分の手の中に握られているのが、黒い隊服だと分かる。一瞬頭にクエッションマークを浮かべるが、去っていく、一つの背中には隊服がない事に気付く。

キャラメル色のさらさらの髪。口を開けて、何か言おうとするが言葉が溶けて出てこなかった
口を開けたまま突っ立っていると、近藤が神楽の肩に手をやった

「ありがとうなァ。こんなに見違えるようになって。いや、本当にありがとう。感謝しているよ」
神楽が上を見上げると、おてんと様見たく近藤は朗(ほが)らかに笑った。
その横で、タバコを吹かしながら土方も口を開く

「確かにな、嬢ちゃんにしては気が利くじゃねェか」

神楽は素直に嬉しいと、白い歯を見せ、二人に笑顔を見せた
沖田の隊服に袖を通し、ボタンを閉める。やはり大きいらしく、サイズが違いすぎたが、この萌え所の様な絵に再びザキは顔を赤らめた。

「あ〜。とにかくオメーはその格好を何とかしろ。いいな」
土方は、うなじを人差し指で掻きながら、なるべく神楽に視線を合わさない様にする。そしてとにかく一刻も早く着替えろと念を押したのだった

神楽はと言えば、とりあえず片ずけを・・・を暢気にしていたが、早く着替えろォォ!!と土方の罵声に、逃げるように部屋にへと向った

折角片付けようとしたのに・・・と少々膨れっ面な神楽だったが、誰も居なくなったのを確認した所で、隊服の匂いを鼻から吸い込んだ。汗臭くて、ちょっと血の匂い…。
でも、それは沖田の匂いで…。

ほとんど無意識だったが、瞼を閉じ、その香に自分を包ませた…

....
足をモジモジさせて、深呼吸した。
あいつの部屋の前…。とりあえずお礼だけでも言っときたい…。
うん、そうヨ、お礼を言うだけ。貸しを作りたくないだけ…。

どうせコイツの部屋通る時にシルエットで私が通ってるって分かる
礼も言えない奴なんて思わせたくないダケ…。
断じて私がお礼を言いたい訳じゃないんだから。

ゆっくりと障子の前を通る。丁度真ん中になったトコで立ち止まった
「ぁ、ぁりがとぅ…」

ちっちゃくなりすぎた…。思ったけどもう遅くて。そしたらその障子の向こうから声が聞こえた

「チャイナ」
体がビクってなって、バックバクって心臓がなった。
こんなのってナイ。何でコイツにこんなにドキドキするんだろう…。ちょっと名前呼ばれただけ。
あっ。ううん、名前さえ呼ばれてない。勝手につけられた変なあだ名呼ばれただけ。

まるで握り潰されたみたいに心臓痛くて、息が上手くできなくて…
酸素一杯吸い込んで口開いた

「な、何アルカ…」
そしたら、畳の擦れる音がした。立ち上がったって分かって、そしたらもぅ限界位まで音が振動してきて
壊れちゃいそうだった。目ぎゅって瞑って、又息出来なくて、ドキドキが止まらないノヨ…。
障子の向こうのシルエットが、あいつ近づくたびにうっすらから、くっきりへ変わって行く。

もう駄目、あたしドコか壊れちゃったノヨ。
だって、小さな針で突いたら簡単にパンって大きな音だして割れちゃいそうな位、胸の中のハートが大きく膨らんでるノ。風船みたいに割れちゃいそうナノ…。
相手は、鬼畜、ドS,最悪最低のあいつなのに…。

顔が熱くて…。きっと今なら瞬間湯沸かし器になれると思うノ…。

そこで気付いた、あたしの格好。隊服の下、何も履いてない見たいに見える。さっきまで平気だったのに、駄目。
コイツの前では無理。恥ずかしくて死んじゃいそうヨ。

「うわわわ!!ま、待つアル」
両手で障子の入り口固定した

「は?何してんでィ。開けやがれ」
「むむむ無理アル。」
「何が無理だ、俺の部屋から出ようが何しようが勝手だろうが。は、やく手を…退けや…がれ」

障子の反対側、フルパワーで開けにかかる。
内側と外側で、力の押し合い…。
「絶対、ぜぇぇったい、嫌アルぅぅぅ!」
目ぎゅって瞑って、今出せる精一杯の力で防ぎにかかる。

と、スパンって音が響いた。

「へ?」
思わず素っ頓狂な声を上げて見ると、外側の障子が空けられていた

「うぎゃぁぁぁああ!!ひ、卑怯ネ!知っててやってたアルナ!」
思わず声を上げたトコで、『バ〜カ』と言いながら、沖田が外側の障子から姿を出し、神楽の姿を見て、固まった…

...
見てるのが分かって、もう全身から熱はなってるのが分かるノ
さっきまで平気だったのに…。膝上20センチから現れる太股が憎らしくてたまらない。
隊服引っ張って、どうにか隠そうとしてみるけれど、この素材の隊服が伸びるはずも無くて、馬鹿なあたしを
自分で憎む…。下唇噛んで、もう早く自分の部屋に帰りたい。でもそうするにはアイツの横通らなきゃ
いけなくて…。すれ違う時肌が触れたら、きっと発火しちゃう位ナノヨ、精神状態!

下向いてるから、あいつの表情なんて分かんない。
あぁ…誰か助けて。

その時、足跡が聞こえた。
後ろ振り向いた瞬間だった。腕を強く引かれて、部屋の中にぐいって引きこまれた。
何かを考える余裕なんて無くて、心臓がとうとう割れちゃったノ
だって…。だってあたし…あいつに抱きしめられてる。

ひゅって呼吸が止まったノ。目の前にはベストがあって、そこからも汗臭い匂いが鼻を掠めた
でも、全然嫌じゃなくて…。そんな事より、肩に回されてる手からの温度が熱くて…自分が溶けそうになる
ドキドキ止まらなくて、ねェ、あたしこいつの事…。

障子の向こう側、歩くシルエットが見えた。きっとあれはトッシーとゴリ。
開けられないかドキドキしたけど、大丈夫だった。
でもあたしのハートは壊れたまま、パンって割れちゃったノヨ。ドキドキのしすぎで…。

ねェ、早く離して…。でも離れたくないノ。
でも早く壊れた心臓縫わなくちゃいけないノヨ。ちくちくって縫わなきゃ。
今度は割れないように、丈夫に縫わなきゃ駄目ナノヨ…

「どんな格好してやがるんだ、テメーは」
頭のすぐ上から、低い声がした。

「お、オマエがくれたから、着た…ダケヨ」
「じゃなくて水着。ココが男だけしか居ねェって分かってンだろィ」
「服…濡れちゃって、食堂のおばちゃんが、娘のモノだけどって貸してくれて…」
「ちゃんと女なのはテメーだけって自重しろや」
「・・・・・・・・・・・・・」

一生懸命…洗ったのに。喜ぶって思って、役に立てると思って頑張ったのに…
高ぶった感情の中、自分の中でツンと来た鼻の痛みに、思わず声を出せなかった
こんな言葉が聞きたかった訳じゃないのに…。考えれば考えるほど鼻の痛みは増して
思わず、鼻をすすった音が部屋の中で響いた…



……To Be Continued…

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