act 19

声を出し損ねた神楽は、両手で口を覆った。
神楽の姿に全く気が付いていない沖田は、自分の手の中であっと言うまに灰と化したソレを手放した。
空中で残りかすまでもが灰になったソレはベランダのコンクリートの上にぱらぱらと落ちた。

「ほら、ジャージよこせよ」
沖田の柔らかく低い声に、女子生徒はヒッ……と声を漏らしながら体を震わせた。
女子生徒はその震える手の中のジャージをきゅっとにぎる。
「何でェ。人のは良くて自分のは嫌ってんですかィ? そりゃちょっと都合が良すぎるとは思いやせんかィ?」
微笑んだかと思うと、沖田は一気に冷たく女子生徒を見下ろした。
「さっさとよこせっつーのが聞こえねーのか。あァ?!」
嗚咽を吐き出しながら、震える体で自分のジャージを三人ともが差し出した。

ずっと見てるのにも関わらず、お妙ところか、神楽までもが動けなかった。
その視線、その声。いつも自分達にかけてくれる態度とは、180度違ったものだったからだ。
周りの生徒も唖然として、声がない。
沖田は取り上げたジャージを先ほどと同じ様に、ライターの火で炙ろうとした。

「ストーっプ」
気だるい声とともにあらわれたのは、担任である銀八だった。
沖田はちらっと銀八の方を見たが、かまわずそのままジャージに火を近づけた。そのライターを銀八は軽く叩き落とした。
「沖田くーん。何やらかしてくれてんのォ? 先生マジでヤバイんですけど」
笑っているように見えて、その瞳だけは鋭く沖田を睨んだ。
「何って、何やってる様にみえますかィ?」
皮肉たっぷりの沖田の言葉に、銀八は顔を若干引きつらせた。
けれど後ろを見てみれば、高杉はともかく、土方や、近藤までもがこの沖田の行動を黙認している事に気付いた。
銀八のため息の理由は、それだけで十分だった。

「ほどほどにしとけよ。大将」
そう銀八は、近藤に目配せをした。確かに近藤も、少々いきすぎてきた頃だと思ってきていたので、ゆっくりと頷いた後、沖田の肩に手をかけた。
沖田は近藤の手だけでその意味が分かったと、その手の中にある女子用のジャージをその場に落とした。
それ以上は銀八は何も言わなかった。けれど沖田が荒れる原因について、しかも女子となると、神楽が少なからず絡んでいるだろうと、キョロキョロと見回した。
そして、すぐに見つけた。が、銀八は、大げさに目をこすっては、もう一度神楽を見た。

そのまま神楽へと近づく。
銀八が目の前に立ったとき、ようやく神楽は銀八の存在に気が付いたようで、上を見上げた。
「銀ちゃん」
神楽は震えていた。
銀八の服をきゅっと掴むと、何故沖田が怒っているのかが分からないと、瞳を潤ました。
銀八は頭を掻きながら、それどころの話じゃねーだろうと沖田の方を見ると、丁度沖田と目が合ってしまい、ギクリとさせた。
沖田の方から神楽は見えない。普段の神楽は、どちらかと言うと、スカートも膝上すぐだし、地味な印象があったため、銀八の後ろにいる女のスカートがあまりにも短いので、神楽とは気付いてないようだった。
けれど、ほどかれた柔らかい神楽の桃色の髪が、銀八の向こう側から靡いた時、沖田はまだ泣きじゃくっているその場の女子を放って銀八の方へと足を急がせた。

銀八の影で沖田が近づいている事を全く感ずかなかった神楽は、その姿が現れると、息を強く吸い込み、銀八へと抱きつき体を小さく震えた。

トレードマークのお団子頭は消え、腰やや上へと靡く髪は柔らかく、寒い寒いといつも制服の下に着ているジャージは、スクールカーディガンで、それっぽさをより強調させている。そしてスカートは街行くギャルもビックリな程短い……。
そんな女が神楽だとは信じがたいのに加え、その女は自分を見ながら震えている。
口が開いたまま閉じることがない沖田を他所に、まるで知らない女の様になった抱きつき沖田から逃げる様に顔をそむける神楽に、銀八は何がどうしてこうなった、と頭を髪をくしゃりとさせた……。




……To Be Continued…

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