act 18


昼間まだ若干温かい気温も、朝早いと、体の芯から体温を奪っていく。
まだ時間にしてみれば、午前7時ちょっと過ぎたところ……。勿論まだ生徒が来る様な時間ではない。シンとしていて、当然だった。だが、そんな早い時間にも関わらず、三年の下駄箱の方から、声が聞こえて来た。それも複数の女子生徒の声……。

「この間上履きヤっちゃったから、今日でも、また買って来るんじゃない?」
その声はとても楽しそうだった。
「もう何足めだっけ? 笑っちゃうわよね? 何度買ったって同じ事なのに」
たまらなそうに笑う声に、又別の笑い声が重なった。
「本当よね。でも、今日は、体操着があったからいいんじゃない? さすがにジャージはなかったけど。っていうか、ジャージもかれこれ何回目だっけ?」
「さぁ……。でも三回くらい買いかえてるんじゃない?」
「マジで? ウケるんだけど〜。いっそまとめて、ほら、上履きみたいに燃やしちゃうってのはどう? あの子の下駄箱の中に灰だけいれてた時の顔。超けっさくだった!」
「確かに! あれはウケたよね〜。必死にかき集めちゃってさぁ、一生懸命沖田さんに見つからない様にって走って捨てに行っちゃって〜」
「私的には、机の中にカッターって切り裂いたジャージを入れた時のやつ! あの娘、机の中に何か入ってるって分かってさぁ〜、それを隣の席の沖田さんに感づかれないようにって必死で平然としちゃって〜。休み時間になったら一気に走って捨てにいってたよねぇ? あの時の顔! 携帯で保存しとけばよかったぁ!」
「ていうかぁ〜、大体いい気になりすぎ! 転校生のくせに沖田さんの彼女になるなんて! あの娘の事、皆凄い目で睨んでるの分かってないのかしら?」
「さぁ? 馬鹿だから分かってないんじゃない? いつも平然と沖田さんの横に居るもの。大体コレくらいじゃ生ぬるいくらいよ。もっと、ほら、何て言うの? 学校にさえ来たくなくなるような……」
得意げに話していた一人の女子の顔が、入り口をみたまま、息をのみこみ、静止した。
目は緊張で張り裂けそうなほどに見開いている。瞳の中にある黒眼は、自分の危険を知らせるように、大きくその色を主張している。けらけらと笑っていた他二人の女子は、急に黙ったまま動きを停止しているその娘の視線の先を見てどうしたんだと見た。直後、そのまんまの形で表情を凍らせた。





「――――何でェ……。せっかくこっちは楽しく聞いてたんでィ。ほら、いいからもっと続けろよ……」

柔らかく笑うその男の顔は、酷く恐ろしい。
身をすくませる、なんて言葉ではなかった。
これからの自分の運命を、たった一つの笑いだけで、女は皆想像してしまった。
最低で、最悪の……。







「神楽ちゃん。いい? 胸を張ってあるく事! それがまず一歩よ?」
お妙はうずうずとする気持ちを抑え神楽に言う。神楽は自分の格好をもう一度みると、何度目かになる「本当に大丈夫アルか?」と言う台詞をまた子やミツバにと向けた。
「大丈夫よ。神楽ちゃん、とっても可愛くて、女の子の私ですら見惚れちゃうもの」
大げさだと言う神楽だったが、別にミツバは、大げさに言ってるつもりは全くなかった。
ただ自分の思ってる事を素直に言っただけ……。

「あ、足元がスースーするアル」
「いいんスよ! それくらいで。神楽ちゃんの足って、本当に綺麗ッスもん。透き通る白さっつーのは、こう言う事を言うんスね! 思わずしゃぶりつきたくなるッス」
短くした神楽のスカートから出る神楽の足を、舐めまわす様に見ているオヤジ発想のまた子を、神楽は呆れる様にみたが、やはり嬉しいものは嬉しく、思わずこの後、沖田に見せる事を考えると、にやけてしまった。

神楽の家を出てから、もう何人の人間がその息を呑む容姿に振り返ったか分からない。
今回の神楽改造計画で、神楽だけ改造するのはさすがに気が引けると、皆揃ってのイメチェンになった。
スカートの長さを短くするのには、神楽だけではなく、実はミツバもちょっと抵抗があったようで、最後までゴネていたが、押しの強いまた子とお妙に、まんまと言いくるめられてしまった様だった。

早く神楽の姿を沖田達に見せたいと、また子は神楽の手を引っ張る。それに続くように、同じくテンションが高いお妙はまた子の手を早く早くと引っ張った。

そして校門についた。刹那、キャーッと言う生徒の声が聞こえた。そして続くように聞こえた凄まじい破壊音。
四人は顔を見合わせると、何があったんだと騒ぎの場所である下駄箱の入り口へと急いだ。

走っていた神楽達の目の前、フッと何かが映った様な気がした。その直後、目の前にバラバラになった机が自分の視界に飛び込んできた。

「なっっ……」
神楽が言葉に詰まった直後、三回目になった女子生徒の悲鳴が聞こえた。神楽達が上を向くと、軽々と宙を舞う教室にあるはずの机。
息を呑んだ。
まるでスローモーションの様に、投げられた机は重力によって、速度を増した。そして神楽達が聞いた初めの破壊音とともに三つ目の机が大破してしまった。
「なにっ?! 一体何が起こったの?!」
振ってきたのは机のみ、全く状況が飲み込めない。お妙は神楽にと口を開いたが、神楽は大きく首をふるだけだった。
すると、もう振ってこないと安心した生徒達が、次々と口を開いた。
「恐かったぁ! 一体何であんなに沖田さんキレてるの?!」
「わっかんない! でもあの近藤さんまであんな風に怒ってるのって、よほど何かあったのよ!」
「いつもは大抵土方さんが止めるのに今日は全く止めないってさっき教室から出てきた娘が言ってたの、私聞いちゃった」


沖田?!
これをしたのは沖田だと言う。
そしていつも仲裁にまわる近藤や土方も止めない程の何かが起こっている?
思った時には、既に地面を蹴っていた。土、日の間にお妙達と買いにいった新しい上履きをはきもせずに、そのまま靴を脱ぎ捨てて……。

階段を上るその間、誰一人口を開かなかった。そんな暇があるのなら、一刻も早くかけあがりたいと……。

息をあがらした神楽達は、クラスに、人だかりが集まっているのを確認した。その生徒の中、神楽達は必死で前に前にと進んだ。そしてその飲み込まれそうな人波の中からやっと出てきた頃、泣き出したあの女子生徒達の声が響いた。

「ごめっ……私達そんなつもりじゃ……」
神楽は目を疑った。ベランダの所では、泣きじゃくる女子生徒三人。そして沖田達の姿。駆け寄ろうとした神楽達だったが、更に信じられないものを見ると、思わず体が硬直した。
「いや、別に何も言ってもらおうなんざ思ってやせんぜ?」
柔らかく笑った様に見える沖田のその瞳は、酷く冷たく、そして暗かった。そして下に見える教科書の束を掴んだ。神楽は冷や汗を背中に伝わした。ゾっとする程の沖田の顔。次に沖田が何をするのかが予想ついたにも関わらず、その体は動かなかった。そして、神楽が考えた様に、沖田は何のためらいもなく、机の中にあったであろう、教科書やノートを手にぶら下げると、高杉から受け取ったライターで火をつけた。



……To Be Continued…

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