act 17


「痛っ……」
「あっ……。ごめんなさいね……。ゆっくりやったつもりなんだけど……」

大丈夫アル……。
神楽が言うと、お妙は柔らかく笑いながら唇から濡れたハンカチを離した。
ミツバはふわっと神楽の青く腫れた頬をさわると、唇をぎゅっと噛み締めた。
「助けてあげられなくて、ごめんなさい」

神楽はただ、柔らかく微笑みながら、首を振った。

あの後、言葉通り沖田は神楽の家を出たあと、また子達を呼びにいったまま、帰ってはこなかった。
玄関に入ると同時、乱暴に靴を脱ぎ捨てたまた子は、神楽をめいっぱい抱き締め、ただ、ただ、ごめんといい続けた。それから今まで、お妙達は、もう何度もごめんと言う言葉を言い続けている。
自分が一緒に帰ればよかった。そしたらこんな事にはならなかったのかもしれないのに……。そう何度も悔やんだ。だが、神楽はそんな事、ちっともかまわなかった。
後になってみれば、自分の所為で、また子やお妙、体の弱いミツバに、何もなくてよかったと言う思いが、素直に込み上げてきた。今回の事が良かったなんて、死んでも思わないけれど、こうなったのが、自分だけで、本当に良かったと思っていた。勿論、そんな思いを口にしたともんならば、今度はお妙達に殺されかねないと、言う事はなかったけれど……。

神楽の狭いアパートは、お妙達が泊まると、いつも窮屈でしかたなかったけれど、
女の子同士のおしゃべりはいつも楽しかった。料理の上手いミツバをキッチンに、また子はお風呂掃除、神楽とお妙は皆が寝る場所の確保……。そんな風に今日もしていた。

いつもと、何も変わらないように……。

寝る前になって、お妙は意を決した様に、口を開いた。
「私、神楽ちゃんに、ちょっと話したい事があるの……。あっ、でもそんな難しい話じゃなくて……。
あのね、神楽ちゃんこれまで、本当に頑張ってきたと思うの。うん、それって本当に凄いと思う。ずっと一人で頑張って、私達聞くばかりで、結局何も力になれなくて……。だから、だから今度こそ、私達にしか出来ない方法で、神楽ちゃんを助けたいって思ってるの」

お妙の真剣な表情に、布団をかぶっていた神楽は、わざわざ座り直し、正座をした。
そんな堅苦しいものじゃないのよ。そうミツバは微笑みながら、お妙の言葉を待った。
「もともと、神楽ちゃんって、美人なの。それ、神楽ちゃん分かってないでしょ?」
「わ、分かってって……。てーいうか、美人じゃないアル……」
唐突なお妙の言葉に、神楽はどういっていいものかわからず、何を言い出すんだ……との表情をした。
そんな神楽の顔を覗き込んだまた子も口を挟んだ。
「神楽ちゃんは、自分の魅力に気付いてないんスか?髪だって、ほら、お団子頭をほどくと、こんなに綺麗っス。この桃色の髪だって、いいなァって思うっスよ」
ミツバも話に加わった。
「そうよ。神楽ちゃんのこのスカイブルーに似た瞳も、凄く綺麗だと思うわ」
「そ、そう……アルか?」
神楽の言葉に、お妙は大きく頷いた。
「だから、ありのままの神楽ちゃんで、これからは生きていこうと思わない? ほら、神楽ちゃんの眼鏡、壊れちゃったでしょ? 沖田さんは、神楽ちゃんをこんな風にした人達を、絶対見つけてくれる。そして、ちゃんと片をつけてくれる。だったら私達は、神楽ちゃんが、もういじめなんかに、二度とあわないように、沖田総悟の彼女として、誰からも文句が言えない様にしてあげる。ううん、私達がそうしたいの。ね? どうかしら? 任せてもらえない?」

思ってもみなかったお妙の言葉、けれど神楽は信じてみたいと強くおもった。
沖田の隣で、堂々と歩けるのなら、劣等感が少しでもなくなるのなら、お妙達に甘えてもいいかもしれない。
そう思えた……。

「うん……。やって、みるアル……」
お妙達は顔を見合わせ一気にテンションをあげた。
自分達が、いくら考えた所で、神楽にその意思がなければ何もはじまらない。
けれど神楽は頑張ってみようかと言っている。俄然やる気が出てきたのは言うまでもない。

また子はすくっと立ちあがると、神楽の制服を取りにいった。
其処で、一度、ボロボロにされた神楽の制服を見ると、思い出した様に、ぐっと唇を噛んだ。それを神楽に悟られないように、替えようの制服のスカートをタンスから引きずり出し、神楽の前にと持ってきた。
「まず、スカートの長さっス。もう街のギャルくらいに短くするッス。神楽ちゃんの足は白くて細いから、きっと似合うっスよ!」
「えぇ〜。短すぎるアル〜。屈んだらパンツが見えちゃうアルヨ」
また子はふふんと胸を張った。そして自慢げに人差し指を神楽の前にさしだした。
「チッチッチ。それくらいが可愛いんスよ。おしゃれには我慢も必要っス」
我慢の使いかたが、若干間違ってる……。なんてお妙とミツバは思ったが、其処はあえて言わないことにしておいた。気をとりなおして、お妙が口を開いた。
「そうね。後は、制服の下に着るのはジャージじゃなくて、スクールカーディガンにしましょう。ほら、またちゃんがいつも着ているやつね」
なるほど……。神楽は感心しながら頷いた。

神楽の頬には、まだ痛々しい青痣。風呂に入った際にお妙が見たのは全身の痛々しい痣と擦り傷の跡……。
それでも神楽はこうして今笑ってくれている。
それは神楽自身のため、そしてこうして居る、自分達のためだと、十分分かっていた。
だからこそ、この土、日曜日の間に、神楽を変えてみせる……。

お妙をはじめ、ミツバも、また子も、そう誓った……。
もう、絶対、絶対、友達を馬鹿になんかさせない、今度こそ、神楽を守って見せると……。

……To Be Continued…

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