act 13

沖田達が足並みを揃えた瞬間、薄暗いその向こう側から、突如甲高い音が響いた。
ガラスの割れた音だとすぐに分かった沖田達は、一瞬だけ顔を見合わせると、その部屋へと駆け出した。

その沖田達が見た光景は、割れた窓ガラスの下敷きになっている、お妙達三人の姿だった。息を吸い込んだまま、沖田達は思わず其処に立ち尽くした。ミツバ達は、頭を庇うように、ガラスの破片に埋もれている。
そしてすぐに沖田達は、神楽の方へと視線を移した。部屋の隅、昔使われていたであろう工具を、手当たりしだい、ガシャンと音を鳴らし、投げつけている。お妙達が、ガラスの下敷きになった原因も、すぐに納得が出来た。

「オイ!何してんだテメー!」
土方が神楽の方へと突っかかろうとすると、ミツバの声が響いた。
「違うの!私たちが悪いの!」
もう何がなにやら分からない土方はその場に立ち尽くしたが、まだ神楽は、鉛筆、消しゴム、カッター、定規…。部屋にあるものを適当に投げつけている。そんな神楽が右手いっぱいに持ったのは、金槌や、ドライバーだった。思うより先に高杉は前に飛び出した。そしてそれは近藤も一緒だった。
ミツバやまた子の前に立ちふさがった二人の体には、鈍い音を立てながら腕や、みぞおちに当った跡が出来た。
何がどうなってるのか、信じられないながらも沖田は神楽の前に立つと、両手を掴んだ。
瞳がぶれている。離せと泣き叫んだ神楽を力ずくで沖田は抱き締めた。しかし神楽は精一杯暴れた。まるであの時の様に…。

土方も遅れながらミツバの側へと寄ると、ガラスの破片を丁寧に頭や体から落とした。顔や腕は、細かく切れた擦り傷がいくつも出来ていた。そんな自分達の体を気にするより、まず神楽の方を見た後、また子は高杉の腕を強くつかんだ。

「私たちが悪かったッス。神楽ちゃんは何も悪くないっス」
「何でこんな事になってやがる!?」
土方の無意識の内に声を荒げた。相変わらず沖田は神楽を押さえつけている。殴って気絶させる訳にはいかない。乱暴に扱う気持ちには当然なれない。だから奮闘する羽目になっているのだ。お妙は、擦り傷に多少顔をしかめながら口を開いた。

「神楽ちゃんが起きそうだったら、三人で顔を覗き込んだの。」
するとその続きをまた子が、その後をミツバがと口を開いた。
「それに傷がいっぱいだったから、何か可愛そうで、悲しくて…。」
「その傷を触ったら、神楽ちゃんが起きて…。」

つまりは、目を開いた瞬間、あの時の映像が、フラッシュバックの様に神楽の頭の中を占めたのだった。
大勢の目の前で自分の体を晒されて、覗き込むようにな視線が絡み付いた、あの蛭の様な視線…。


神楽は、自分の身を守ろうとしただけだった…。神楽の瞳の中には、【あいつら】が居たのだ。訳が分かったにせよ、とりあえず暴れる神楽を何とかしたい…。その思いを込めながら皆は沖田へと賭けた。

沖田は暴れる神楽の背をゆっくりと、ゆっくりとさすった。
「神楽。もう大丈夫だ。俺が居る。ずっと側に居てやる…。」
あえて、今にも儚く消え入りそうな声で、沖田は囁くように神楽の耳元で何度も囁いた。最初、なんの効果も得られなかった様に見えた神楽だったが、少しずつ変化が現れ始めた。心臓を強く上下し、もう枯れた涙で、しとしとと頬を濡らし、小さな嗚咽を出し始めた。
「大丈夫、俺がついてる。――もぅ何も恐くねェ。」
体力の全てを出しきった神楽の体は、自然と沖田の腕にと委ねられた。

「ごめッ…沖田ごめんねェ…。沖田、沖田ごめ――。」
もう何も言うなと神楽を強く抱き締めた。痛いと分かっていても、強く抱き締めずにはいられなかった。沖田の背に手を回した神楽は、ただひたすらゴメンと泣き続けている。
何でお前が謝るんだ…。沖田は歯を食いしばった。
気付けなかったのは自分の方…。あの合間、近藤達から全てを聞かされた時、目の前が更に暗く暗く落ちていった様な気がした。なんの事はない。原因は自分の方にあったのだ。神楽を見る女子の目が鋭かったのを知らなかった訳じゃない。ただコレくらいなら大丈夫だろうと楽観視していたのだった。そんな自分の甘さが招いた今回の出来事…。馬鹿なのは、謝って許して貰えない程の事をしてしまったのは自分のほうなのに…。


擦り傷なんて痛くない。こんなの神楽ちゃんに比べれば、全然痛くなんかない…。

傷だらけの体を押さえつつ、沖田の腕の中で泣き続ける神楽を全員で見守った…。

……To Be Continued…

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