act 12

ほのぐらいその場所から、眩しい陽の元へと晒された高杉は一瞬だけ目をしかめたが、すぐに飛びこんで来た光景を視界に入れると、考える間もなく地面を蹴った。
馬乗りになった沖田の体は、土方の頬に一度己自身を振り上げ、下ろそうとしている所だった。
その手に絡みついた様にあるのは、近藤の太い腕、そして間にあう事の出来た高杉の腕だった。
それでも沖田の視線は土方にしか向いてない。いや、土方の向こう側に居る、その誰かすらも分からない人物に向けての視線だった。

表情はなく、まるで機械の如く高杉と近藤が押さえつけている自身の腕を動かそうとしている。近藤は沖田の体を土方から離そうとしている。しかし沖田は一方の手で、これでもかと土方の胸倉を掴み、離れる様子は全くと言っていい程なかった。

下で沖田の手を振りほどこうとしていた土方だったが、急に、何か吹っ切れたようだった。

「オイ!トシ!」
言った近藤の声と同時に土方は右の拳を思い切り沖田の頬へとねじ込んだ。胸倉を掴んだ手はそのままだったが、沖田の体が大きく反動で揺らいだ。思わず呆気に取られた所為で高杉と近藤は沖田の腕を掴む力を緩めてしまった。刹那、物凄い速さで沖田の拳が土方の頬へとはいった。

土方の口内でガリっと言う、歯を切った生々しい音と、一瞬で鉄の味が口内を占めた。

血走った土方の視線は沖田を捕らえると一度沖田を突き飛ばし自身の体を起しながら体勢を立て沖田の後頭部へと足先を向けた。そしてそれがモロに入った。近藤は思わず息を呑んだ。そして驚いた表情をさせた。
「総悟の奴ァ、何も見えてないのか?」

すぐ側で立つ高杉も、全く同じ言葉を思ったところだった。
普段なら、どんな状態でも、土方の蹴りを沖田が食らうことがなかったからだった。ひょうひょうとしながら、悪態をつき、せせら笑う。それが沖田 総悟だった。

そんな二人の視線の先で沖田はゆっくりと立ち上がろうとした。が、頭に衝撃をくらって思うように体を起せないでいる。そんな状態の沖田に土方は、先ほどの沖田がした様に馬乗りになると、一瞬間を置き、沖田の頬へ拳を振り下ろす。続けて下ろす。また下ろした。間髪いれず、右から、左から…。沖田の口の両側が切れて血が吹き出す。

制服は、神楽の様に土まみれになっている。

と、そんな沖田に変化が訪れた。
すぐに三人は気付く。黒く染まった視線の先に、土方は自分の姿を見た気がした。
まるで機械の様に的確だった沖田の拳は、いつもの沖田の癖を垣間見せた。殴ったと思えば殴り返され、体を上下しながら息を吐いたころには、近藤も、高杉も、胡坐を掻いて座っていた。

散々暴れた二人の所為で、そこは土ぼこりが風に舞い、時折それが口の中へと入って、ジャリっと音を鳴らした。

「痛てーじゃねーか…。土方コノヤロー。」
沖田が途切れ途切れに吐いた言葉を土方は耳にすると、くっと笑った。
「やっと【らしく】なったかよ。」
言った後、唇が切れていたのを思い出し、案の定ピリっと切れた所為で滲んだ血を土方は指で拭うと、制服にこびり付けた。

土方の言葉を受け、何を思ったのか、沖田は下を向き、息を吐き続けた。
背中の上下が、だんだんと落ち着いてきた頃、人の影が自分を覆ったのに気付いた。
ゆっくりと見上げる。

「こんなんだったら、俺がアイツと変わってやっても良かったな。」
視線は土方に注がれている。けど…。高杉は続けた。

「こんなオメーとやっても、面白くねーわな。」

今の高杉の言葉も、土方の行動の意味も、近藤の気持ちを全部を汲み取った沖田は頭を掻いた。しかし表情は苦みばしっているままだった。
「どーしていいか、俺だって分からねー」

近藤が、沖田の肩に手をやった。たった今気付いた様に近藤を見ると、すがる様な表情をし、顔を覆い、神楽の名を呼んだ。

神楽の事を考えると、何とも言えない感情に潰されそうになる。その感情は思わず溢れ、先ほどの怒りとは反対に、沖田の鼻をツンと刺激した。

「大丈夫だ。チャイナさんは、絶対大丈夫だ。いや、絶対大丈夫な様にしなくちゃいけない。壊させてなんかやるものか。」
少々赤みがかった沖田の瞳が近藤を見ると、何もかも包むように近藤は柔らかく、しかし力強く笑った。
「あぁ、アイツを信じてェ。」
沖田は掠れた声を出すと、ゆっくりと立ち上がった。ふと隣を見ると、土方の顔がある。一瞬沖田が、いつもの調子で笑うと、自分の顔を見て見やがれと、土方は言った。
軽口を叩こうと沖田は口を開けたが、出てきた言葉は違ったものだった。
「あいつの顔…。あいつの傷はこんなモンなんかじゃねー。こんな傷、かすり傷にもなりやせんぜ…。」
聞いた土方は、ゆっくりと視線をそらした。

「行くのか?」
高杉は沖田を見た。
「あぁ、アイツを絶対ェ壊させたりなんかしねえ」

「きっと、泣いてやがんなァ…」
高杉が言う。
その言葉を聞き、男は、それぞれの泣き顔を頭に浮かべると、色々な思いを抱えつつ、その足を踏み出した。


……To Be Continued…

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