act 11

時が…止まった気がした。

瑠璃色の瞳は光を失い、そこに立ち尽くすしかない男達、そして、力なく座り込んでいる女の影…。

高い天井近くに取り付けられた窓から、光が所々漏れており、その光の中に浮かび上がった神楽の姿は、キラキラと埃が舞う中にあった…。

雲に邪魔されていた陽の光が神楽をまるで浮かび上がらすように照らし、その姿を暗闇の中、はっきりと沖田に表した。だらりと流れる細い手は裂かれた服を直すと言うただそれだけの事さえ出来ない。引っ張られその形状を保っていない下着から見える小ぶりの胸、そしてあちこちに浮かび上がる痣と傷跡…。

半分隠されている顔の反対側は、時間が経つにつれ青く腫れ上がった頬と切れた唇。

沖田は身震いを起こした。おまけに眩暈にも襲われ、思わず後ろに少しよろけた。
あまりに現実からかけ離れている事が、今目の前で起こっており、さらにそれがこの世で一番大切にと守ってきた者。頭の中でプッと切断された音が聞こえた。

「―――コイツを頼む…。」

言うなり踵を返す。
ハッとした様にまた子らは沖田の顔をみあげたが、その時には其処には姿はなく…。
暗がりから沖田が陽の元へ出ようとする所で、土方が肩を引いた。勢いよく振り返ったと思えばそ、そのまま首元を土方は捻られた。沖田の目は正気じゃない…。

「殺してやる。見つけ出して絶対ェ殺してやる…。」

「ガッ…。総ッ…。おち…つけ――、」

搾り出すように、捻られた首元を手でもがきながら土方は声をだした。が、沖田にはまったく見えてない。緋色の瞳は瞳孔がかっ開き深く狂気を宿している。
その沖田の腕を両手で近藤が掴んだ。離された土方は酷く咳き込みその場に膝を付いた。沖田よりも力のある近藤だが、今ばかりは羽交い絞めにするので精一杯といった感じで、しきりに落ち着けと繰り返している。

近藤は土方と一緒になり、真顔でその瞳に狂気を宿す沖田を陽のあたる場所まで連れ出した。

「オイ、大丈夫か。」
あちらは、あの二人に任せたと、あの一瞬の後高杉が神楽に駆け寄った時には神楽はショックのあまり気を失っていた。高杉は側に落ちていた制服を手早く神楽にかけ、抱きあげた。この高杉の行動に触発されたようにお妙らも立ち上がり、とりあえず中へと神楽を運んだ。

奥に進むと、事務所らしき部屋があり、誇りまみれのソファの上にまた子は自身の制服を素早く抜き、その上に神楽を寝かせた。部屋の窓からは光が十分に差し込み、電気などついてなくても十分に明るかった。神楽をソファに寝かせると、すぐに高杉も踵を返したが、その服を強くまた子が引いた。
「居て…。此処に居て欲しいッス…。」
すがる目をしてるのは、また子だけではなかった。ミツバも、そしてお妙さえも不安に駆られている。

「コイツにはオメーらがついててやれ。今のアイツは危険すぎらァ。」
首を強くまた子は振った。
「目が覚めた時俺が居てもこいつは興奮してしまうだろう。女だけの方が絶対ェいい。」
不安で、どうしようもないのだ。泣き叫び、興奮する神楽が、本当に壊れてしまわないか、それを自分達だけでおさえつけれるのか、どうしようもなく不安でたまらない、心細いと…。

「今のアイツじゃ、本気で誰かを殺っちまう。そうなる前に止めなきゃなんねェ。コイツの為にも。」
そう言うと高杉は半ば強引にまた子の手を剥がし背中を向けた…。

友達を守ってやる。それが今の自分に出来ることだと頭では分かっていても、こんな事になるとも思わなかったと、今でも信じられない気持ちが心臓を締め付ける。神楽が神楽でなくなってしまったら、自分はどうすればいいのかと思う気持ちが自然と感情を高ぶらせ、涙を頬に伝わした。

なんだかんだ言っても、自分達は、無力で、目が覚めた時にどうせればいいのか分からない。一生懸命頬を拭ってみるが、簡単な正義感などでどうにかなる問題ではないのは、この場に置かれた自分達が一番よく分かっている。
それに伴い、神楽の唯一の人である沖田に知られてしまった。高杉の言ってる事は、もっともだと分かっていた。

あの目、一瞬見た自分達でさえ、その火の粉が向かって来るんではないかと恐ろしかった。信じているにも関わらず、恐怖に駆られた。
あんな沖田を見たのは、姉であるミツバを含め初めての事だった。予想できる範囲をとおに超えているからこそ、その不安は計り知れるものではなく、その体を内側から震えが揺さぶった。

神楽に出来る事がわからない。こんな自分が情けなくてイライラとした。だから余計に涙が溢れた。くやしいと…。

……To Be Continued…

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