act 10

二人分の足先が瞬間、陽の当たるその場所へと向き、人生の中で始めてとも言える瞬発力を発揮した。だがその前に誰よりも近かった土方の手が沖田の手を無理やり引いた。突然のことに体勢を崩しつつ、しかし崩しきる事を許さないように…。

間もなくその暗闇の中から二つの影が出てくると同時、その別世界の様に暗くしめった空間の中から今度こそ壊れた様な悲鳴と鳴き声が聞こえた事で、沖田の足は石の様に動かないどころか、その場所へと進もうとした。

しかしそれを土方、そして近藤、高杉が体をていして止めた。が、既にあの一瞬の声が聞こえた時点で沖田の瞳孔はかっ開いていた。そして友人と呼べる筈の自分達にさえ、その牙をおしげもなく向けるように、鋭い眼光を向けた。

「総悟ッ!いいからお前はこっちへ来い!。」
土方がもう一度沖田の腕を巻き込むように持とうとしたが逆にその手をがっつりと持たれ、かと思えばそのまま土方の腹に深く膝をねじ込んだ。一瞬のことで、そして想定外の事ゆえに土方はモロにくらいその場に崩れそうになった。しかしその腕だけは執念深く離していない。

その意思を受け継ぐように高杉の足が一発狙いで沖田の後頭部へ…。けれどその狙いに気付いた沖田は顔一個分で避け、土方の手を引きちぎる勢いで引っぺがし、その足をそのままその空間の中へと…しかしその最後の砦を守るように、沖田の進行方向の前に近藤が立ちふさがった。

「すまん…。お前をこの先に行かせる事は出来ん。あまりに残酷すぎるんだ。見てられん、あんな――。」
言葉を遮るように、もう一度反響した神楽の声、そしてその神楽の名を呼ぶお妙らの悲痛な叫び…。
歪んだ近藤の顔が半分が陽に、半分飲み込まれそうな暗闇に隠された。

「なん…だって。アイツがあんな…其処を退いてくだせェ…。頼みまさァ――近藤さん。」
絞りきるように出された沖田の声、だが、近藤は両手で沖田の肩をこれでもかと掴み、更に其処からちからを手に加え、しなる音が聞こえそうな中、首を振った。その顔は泣いているようにも見えた。

「頼む…頼みまさァ――アイツの元へ…神楽の――。」
「嫌!嫌アル!来るなァッ。来ちゃ駄目ェェ――。」
泣いて、叫んで、けれどギリギリで壊れなかった神楽の声は解体屋いっぱいに割れそうに響いた。

ボロボロの制服を托しあがるように神楽は立ち上がった。けれどその腰は立つ事が出来ないと言う事に気付く。ならばとスカートをひこずりながらコンクリートの上を這っては、奥へ奥へと逃げる。コンクリートの上をずるずると進む太股に無数の切り傷ができた。

そんな事かまうもんかと全身を震わせ、とにかく逃げたいと、逃がせてとその手を一生懸命に前へ、前へと出した。その姿を泣きそうに面を、いや、顔をくしゃくしゃにしながら見ていたまた子だったが、放置された近藤や高杉の制服をぐっと掴むと、神楽の上からかけ、必死に頬を拭いながら神楽に手をかした。それに続くようにお妙とミツバも手をかし、神楽を立たせた。

沖田に、近藤に背を向けるように建物の奥へと――。しかしそのお妙の肩に男の力強い手が食い込んだ。

同時にそれはミツバの肩にも置かれており、心臓を跳ね上がらせた二人の少女は思わず神楽を支える手の力を失った。いきなりの事でまた子も支えきれず、神楽はストンとその場に落ちる。

背中を向けている少女達に焼けるような温度が触れた様な気がした。

愕然としながら後ろを振り返ると、立ち尽くした近藤の影、そして真後ろの男…。

暗闇にその深紅の瞳が慣れ始める頃、浮かぶは自分を見上げる、ぐちゃぐちゃのタカラモノ…。
その透き通った瞳に、暗く、黒く、影が侵食した…。

……To Be Continued…

作品TOPに戻る







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -