01


こわい…こわいよ…


どうして、みたくないものがみえるの?


どうして…どうして…


こわいよ…とうさん…にいさん…


たすけて!…たすけてよぉ!


どうしてだれもいないの?


おねがい…ぼくをひとりにしないで!





幼子は助けを求めて走り回っていたが、教会のど真ん中で崩れるように座り込んだ。目を開いていれば嘲笑うかのような、悪魔の姿が視界にちらほらと映りこんだ。それを嫌って目を閉じれば、瞼の裏は濃密な闇が広がり這い寄って最後には包み込まれる気がして、ただただ恐ろしくて堪らなかった。それでも、膝を抱えて自らの身体を抱きしめてぎゅっと目を閉じ、恐怖に震えることしか幼子にはできなかった。





『ひとりじゃないよ』



――…え?



ふと、闇の中響いてきた声に僕は不思議そうな声をあげた。身体を小さく丸めて震える僕に優しく降ってくる声は、とても耳に馴染んで、自然と不信感を抱かせなかった。



『きみはひとりじゃない…だから、なかないで』



声がなかないでと言った時に、僕は初めて自分が泣いていることに気が付いた。目頭は熱く濡れた頬が外気に触れ少しひんやりとした感覚がした。



――でも…こわいよ…



僕は膝をしっかりと抱え込んで、何も見たくないと訴えた。怖くて怖くて堪らない。



『だいじょうぶ。ぼくがそばにいるから』



声の相手がそっと寄り添うような感覚がして、証拠に背中に温もりを感じた。それはとても安心する感覚だった。今思えば、それはまるで、欠けていたものが戻ってきたような感覚にも似ている気がする。



――そばにいてくれるの?



僕は思わず縋るように問い掛けていた。言葉を交わすのはこの時が初めてだというのに、僕はその声に無条件で安心しきっていたんだ。



『うん。きみのすぐそばに』



自分の手の甲に何かが触れた。すぐには分からなかったが、それが相手の手の甲だと理解すればなんとなく手を動かして接触を繰り返した。すると、返答するように相手も軽く手の甲を動かして触れ合わせてきた。ただそれだけのことを、互いに黙ってしていた。それなのに、僕の胸はドキドキと高鳴っていて、相手もそうだったらいいのにとさえ考えていた。



――ねぇ…きみは、だれ?



ふと、僕は声を漏らした。それは、不信感からくる確認ではなく、好奇心だった。相手が誰なのか知りたいという純粋な気持ちで、僕は背中越しに伝わる温もりに半ば身を任せつつ問い掛けていた。



『ぼくは……―――だよ…』



――え?きこえなかった…もういっかいいってくれる?



耳の奥できぃぃいいんと耳鳴りが響いて、僕が聞きたい答えを掻っ攫っていく。



『…まだわからなくていいってことらしいね』



――え?



相手の言葉の意味が理解できなくて、困ったように眉根を寄せてしまう。



『ふふ、そのうちわかるよ』



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