しにがみのおはなし。


「いやだああああ!!
死にたくないぃいい!!」

森の中を走りながら絶叫する人間の後ろには、黒い布を目深に被った2つの人の姿があった。
どちらも異様に大きな大振りの鎌を持っている。
しかし、その大鎌を支えている腕は皮と骨だけしかないようで…
皺だらけで、老人のように見える。

『そなたの寿命じゃ…』
『恐れんでもいい…
痛みなどないからのぉ…』

嗄れた声だ。
しかし、耳障りではない。
まるで、泣きやまない孫を諭すおじいさんのような、優しい声だった。

「死にたくないんだあああ!!」

それでも、その人間は恐怖で怯え、2人から遠ざかろうと懸命に走っていた。
何が原因で、こうなったのか?
人間には分らなかった。
ただ、森で山菜をいつものように採っていただけだ。
いつもと違うのは、肌身離さず持っていた御守りを、家に忘れてしまったぐらいだろうか。

『往生際の悪い人間じゃ』
『うむ…死神ごっこも飽きたな…ウケケケ』

突然、声のトーンが低くなり、耳障りに変わった。
思わず振り返ってしまうと、そこには布を脱いだ2匹の黒い鬼がいた。
2つの大鎌が飛んできて、人間は木に張り付けにされた。

「うあああああ!!!」

つなぎ留められた両肩から、血が流れ出る。
人間はそのまま、気を失ってしまった。

『さぁ、喰ろうてやろう』
『頭からか?
それとも、足からか?』

鬼は喰らうべく喜々として、気を失った人間に手を伸ばした。

『…クス…』

微かな笑い声に鬼の手が止まり、2匹の鬼は自分の背後を見た。

『あぁ…フフ…
どうぞお続けください。
死神ごっこにリアル鬼ごっこ…
最後は何ですか?』

中性的で鈴の音のような美しい声。
まるで、世間話でもしているかのような口調で、そこにいたモノは言った。
そのモノは、布を被り、鬼が持っていたような大鎌を持っている。
しかし、鬼の演じていた死神とは、幾分様相が違った。
目深に被っている布は、血のように赤い色をしている。
先程まで、鮮血の雨でも浴びてきたかのような妖艶な色だ。
際立つのは、布からのぞく白磁のようなきめ細かい白い肌と艶のある白髪。
持っている大鎌は、鬼持っていた鎌の比ではないくらい大きい。
柄の部分の長さだけで3mはある。
刃渡りも1mは超えているだろう。
明らかに、人が振り回せる刃物ではない。
おそらく、一人では地面から持ち上げる事すら不可能だろう。
それでも、木漏れ日でキラキラと輝く姿は何故か恐ろしい刃物という印象より、神々しい印象すらあった。

『お前からは、禍々しい気配がする…』
『ぃぇぃぇ、貴方程ではありませんよ…フフフ』
『ウケケケ…減らず口を!
貴様も喰ろうてやろう!』
『そうだ!
喰ろうてやろう!!』

鬼はそう言うと、いつまでも笑っているモノに跳びかかった。

『残念…
私、死神なので餓鬼の気持ちなんて分からないんですよね』

笑みを含ませてそう言った声は、跳びかかった鬼の背後から聞こえた。

『さぁ、飢えから解放してあげましょう』

大鎌の柄の部分が、地面に軽く打ち付けられた。
すると、空気が波打ったような感覚。
そして、一瞬の内に2匹の鬼と張り付けに使われていた大鎌は浄化された。
悲鳴も苦悶の表情も出させないくらいの、一瞬の出来事。
残された音の余韻が、聴くモノ全員をうっとりとさせる程に美しい。

『あぁ…
やはり美しい音ですね…
シルバーンは…フフフ』

愛しそうに純銀製の大鎌を見上げる素振りをする。
しかし実際は、目深に被った布で見えてはいないだろう。

『それにしても、この時代は雑魚が多過ぎる…
音だけで浄化されて…
下り過ぎたか。
…面白くないな…』

独り言を言いながら、(自称)死神は木の根元に転がっているの人間に近付く。
どうやら、傷は浅く死ぬ危険はないようだ。

『何だ。
生きているのか。
つまらないな…
鬼共も、さっさと心臓を抉り出すなり、頭を喰らうなりすれば良かっただろうに…
待ってやると言ってやったというのに。
死んでくれないと、刈れないではないか…
大体…同業者かと思って、横取り狙いだったというのに…
あぁ…私の楽しみを返してくれ…』

「うぅ…」

人間が目を覚ますと、自分の家だった。
両親に尋ねると、森で倒れていた所を村人に助けられたらしいとの事だった。

《おしまい。》





++あとがき++

…ゆらゆーらー
…ゆらゆーらー
揺れるココロを出迎えるー
いざや、いざやと参ろうかー


…フフ
こんな歌が聞こえたなら、どなたかを迎えに来た私の可能性が高いですね。
それは、あなたかもしれない…
あなたの周りの人間なのかもしれない…
それとも、違っていたなら…
フフッ…私が、ただ口ずさんでいるのを聞いてしまったのでしょう。
あぁ…言っておきますが、寿命か他殺じゃないと私は刈りに…迎えに行けませんからね。
自殺補助の他殺も行けませんよ。
私はそういう死神ですから…
ノート…?
私は持ってないですね。
メモくらいはするかもしれませんが、ノートを使うような仕事も趣味も持ち合わせていませんからね。
あぁ、趣味は勿論…同業者いびりですね!
あの悔しがりよう、嫌がりようを眺めるのが…フフフ


という感じになりましたが、あとがきってこれでいいでしょうか?
はい、では今度会う時は、あなたの魂魄を刈らせてくださいね。
…クスッ…
by死神

Copylight:小波ハク様




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