60.『もう会いたい』


@ティーカップ一杯分に対して、大さじ1杯程度のハーブを使います。
A沸騰から一呼吸おいたお湯を静かに注ぎ、素早くフタをして3~5分蒸らします──


……ごちゃごちゃ書いてやがるが、要するに紅茶と一緒の入れ方でいいってことだろ……

読むのもツラい。缶に書いてある説明を最後まで読むのを止めた。
今日は日が暮れるまで苦手な会議が長引いて、いつも以上にリヴァイは疲れていた。先日の、雨の中での訓練が祟ったのか、彼には珍しく風邪気味でもあったから。
そして彼が言うより先に、その体調不良に気付いたアサギが風邪に効くからと、このカモミールティーの缶を持ってきてくれたのだった。
『急に王都へハンジさんと出向くことになったので、私が持っている間に合わせですが、どうぞ。喉の痛みにも効きますし、リラックス効果もあります。ちゃんとした風邪薬は今切らしてるので、王都で買ってきますね』
そう言って彼女は今朝ハンジと共に旅立ってしまった。
戻るのは3日後。朝顔を見て以来まだ一日も経っていないというのに、もう会いたい。
他人の熱に浮かされたような恋愛話を耳にする度、昔の自分なら馬鹿馬鹿しいと氷のように冷ややかな視線を向けていたのだが、まさにブーメラン状態だとリヴァイは苦笑いした。今なら痛いほどそいつの気持ちが分かる。

アサギのおもいやりが詰まった缶をそっと開けてみる。
見慣れた紅茶の茶葉とは全く違う中身を見て、少し驚く。乾燥した小さい花がゴロゴロ入っていて“ティー”とつく飲み物が茶葉だけではないことを知り、目から鱗が落ちる。せっかくなので早速飲んでみるかと椅子から重い腰を上げた、ちょうどその時、遠くから誰かがブーツでドカドカ走って来る大きな足音が。
どこのクソ野郎だ、あれほど廊下は静かに歩けと口を酸っぱくして言っているというのに……
リヴァイが呆れたようにため息を吐くと同時にドアが勢いよく開いた。

「リヴァイッ!!!!」

突然ハンジが勢いよく入り込んできた。

「くそメガネ、ノックくらいしやが……」


………待て、なぜハンジがここに?


その言葉はハンジの空気を裂くような叫びによって遮られた。

「アサギが!アサギがっ……!!」



こんなにも頭の中が真っ白になったのは、

久方ぶりのことだった───


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