40.《憲兵になって》


『東洋人狩り一味の仕業だろう。詳細は調査中だ』


訓練兵団の教官や、事件を扱う憲兵団に聞いても、返ってくる返事は一辺倒だった。

唯一の肉親であった父母が殺されたのだから、誰が、どんな理由で殺害したのかを知りたいと思うのが普通だろう。
簡素な葬式を済ませた後、自分なりに調べてみた。
だが得られる情報は"東洋人狩り"の1つのみ。
裏があるに違いないと、食い下がり探ろうとすれば『それは憲兵の職域だ。訓練兵の分際で出しゃばるな』と、今は亡き当時の教官から一蹴された。

だったら、やってやろうじゃない
私自身が憲兵になって、この事件を見極めてやる

その日から、過去の堕落した自分が嘘だったかのように死物狂いで勉学に励み、学年首位で卒業、目論見通り憲兵団へと上ることとなった。

そこから沢山の知らなかった世界が見渡せた。
まず、憲兵団。
限られたものしか入れないエリート集団。優雅にかつ第一線で精力的に仕事をしているものだと思っていたが、そんな皆が抱くイメージは全くの虚構で、実際は職務と称し昼間から賭博や飲酒の職務怠慢、さらには課税対象ではない輸送物に無理矢理脱税の嫌疑をかけて没収するなど職権濫用を極めており、内部は完全に腐りきっていた。
そして、"東洋人狩り"。
事件から数年経過していて、しかも両親が殺害された件以降、"東洋人狩り"に絡んだ事件が全くなく、捜査は暗礁に乗り上げたまま風化しつつあった。何とか手懸かりを探ろうと古い事件資料を開くも、犯人に直結するような物的証拠がない上に、犯行現場の当時の状況記述が非常に稚拙で取りつく島もない。ただ一つ、私が知ってることで、ここには記述がなされてない事があった。母親の長い髪が切り取られ、持ち去られていたこと。犯人がどこかで転売してたのなら、事件後直ぐに捜査の網を張ればしっぽを掴めると、当時の憲兵に捜査するよう願い出たが相手にされなかった。非常に悔やまれるが、今となってはもう泣き寝入りするしかないのだろうか……

そう諦めかけていた時、シガンシナ区で人買いによる殺人が起こった。
殺されたのはアッカーマン夫婦。二人にはミカサという娘がいたが無事で、馴染みの町医者イェーガー氏に引き取られた。

ようやく両親の仇を打つ足掛かりを探せると意気込んで、慎重に粘り強くこの事件の捜査をしていくと、"東洋人狩り"がなぜ表に出ないのかという、その理由を掴んでしまった。裏で貴族が絡んでいたのだ。しかし証拠が無いため、肝心の黒幕を被疑者として公に立件することが難しい、そのうえ相手が大き過ぎる。頭を抱えていたところに、かつての上司であったナイルが"東洋人狩り事件"に関する特命案件を持ってきた。

『ある上級貴族の屋敷で使用人として働いてくれ』

いわゆる、"潜入捜査"だった。


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