01.『初めまして』


調査兵団本部の食堂―――

日が暮れると団員の殆どが集まってきて、賑やかな社交場と化す場所。
夕食時、皆が揃い食事しているのを見計らって入ってきたエルヴィンが、出入り口付近で力強く3回手を鳴らして注目を仰いだ。


「食事中のところ申し訳無いが、少しだけ聞いてくれ。今日から我ら調査兵団の仲間となる者を紹介する」


暗い廊下の方に目配せすると、身の丈160cm程で黒髪をシニヨンに結い上げた女性が食堂に入ってきて敬礼した。


「アサギ・コールマンだ。昔、憲兵団に所属していたことがあるが、その後しばらく離職しており、この度復職することとなって調査兵団に配属となった。所属班は、これからの訓練等を鑑みて決定する。皆、宜しく頼む」

「ご紹介いただきましたアサギ・コールマンと申します。ブランクこそありますが、皆様に追いつけるよう、全力を尽くして励む所存です。よろしくお願い致します」――――……



「おいエルヴィン、新入りが入るなんて話、俺は聞いてねぇぞ。しかも何でこんな飯時に」

「すまん、言ってなかったな。何せ急に決まった事で話す間もなかった」


怪訝そうにする俺を一瞥して、申し訳なさそうに眉を下げながらエルヴィンが言う。
本来なら日中、野外の壇上にて新人紹介をすべきだが、今回は離職者の復職に伴う異例の人事異動のため簡略したらしい。
その”新入り”はというと、同じ長机の少し離れた所でハンジに腕をガッチリ組まれた状態でエレン達に囲まれて座っている。
親密な様子からして、ハンジとは前からの知り合いか。


「アサギさん、前に憲兵団に所属してたって言ってましたが、どうして辞めちゃったんですか?」

「エレン、単刀直入過ぎ。」


ハンジがテキトーにその辺の104期生を"新入り"に紹介し終わると、いかにも興味津々といった感じでエレンが質問しだした。
それをミカサが制すも"新入り"は嫌な顔すること無く笑顔で返す。


「体調不良きたしちゃったので、周りに迷惑かけないように退職したの」

「え?体調不良って、それもう治ったんですか?ってか、何でよりによって調査兵団に?」

「エレン!」


ミカサやアルミンが失礼だろとエレンを呼び止めるも、実際のところ周囲の皆も気になる質問であったので、外野はあえて黙って聞いていた。


「体調不良は治ったので、もう今は全然大丈夫。調査兵団に来たのは、簡単に言えば"生きる目的"が変わったからかな」


"新入り"はからりと笑って応えるが、その意味深な回答に周りは分かったような分からないような、不思議な顔をしている。
が、それに突っ込む隙を与えない程の早さでハンジが口を開く。


「いやー、それにしてもアサギ、本当久し振りだよね!昔から全然風貌変わってないから逆に驚いたよ!一体どういう仕組みなの?」

「そういえば、何でハンジさん、そんなにアサギさんと親しげなんですか?」

「ん?だってアサギは私の一期下の可愛い後輩だからね!」

「「「えぇ!?」」」


エルヴィンとハンジ以外の、その発言を耳にした者の時間が止まった。

―――この新入りは一体何歳なんだ!?

エレンやミカサらとあまり変わらん歳にしか見えんが……


「あの……女性に歳を聞くのは非常に失礼なのを承知で質問させてもらってもいいですか?」

「え、私の年齢?あ、えと、永遠の二十歳でお願いします」

「何畏まってんのアルミン、まぁ気になるよね、分かる分かる。アサギも二十歳って(笑)冗談が冗談に聞こえない見てくれだから厄介だよ。アサギは……そうだ、確かリヴァイと同い歳じゃない?ねぇエルヴィン」


ハンジがエルヴィンに視線を送ると、あぁと無言で頷き肯定する。

―――…マジかよ……

やっぱりね〜と暢気に新入りにじゃれてるハンジの周りは驚きの余り完全に固まっている。
エレンとジャンは驚きで椅子をひっくり返して立ったまま、サシャはスープを口からポタポタこぼしながら……

確かに一度憲兵した後に離職しての復職となると、その年齢なのは分からなくもない。
だがこいつの顔からすると、どう見ても二十歳前後、いってても23歳くらいかと……

流石の俺も童顔詐欺だろ、と新入りの顔を二度見した。
すると『リヴァイ?』と呟きながらこちらを向いたヤツとバッチリ目が合い思わず逸らしてしまった。


「あぁ、あれリヴァイっての、兵士長の」

「クソメガネが……顎しゃくって言うんじゃねぇ」

「リヴァイ兵長ですね?お噂はかねがね伺っております。初めまして」

「……。」


にこりと笑顔をストレートにぶつけられ、気恥ずかしくて舌打ちをしながらソッポ向いてしまった。
何となく調子が狂う感覚に苛立ちを覚えながら、クソメガネらが新入りと話をしているのに耳をそばだてつつ、気持ちを誤魔化すように目の前のビールを一気に流し込んだ。


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