08.settled down


リップ音と共に唇が名残惜しそうに離れ、零れた温かい吐息がしっとりとした互いのそれにかかる。

初めての経験ではないのに、どうしてここまでドキドキするのだろう……
こんなに甘く満たされるキスは初めてで……



「……、何だか恥ずかしいわ…」

「そうか?……俺は……ずっとこうしたかった……」



羞恥で頬を染め、潤んだ瞳を逸らすと、リヴァイはその頬にそっと手を添え反対側の頬に小さく音を立てキスをして、包み込むようにアサギを強く抱き締めた。



「アサギ……、会いたかった……」

「リヴァイ……私も会えて嬉しいわ」

「もう逃がしてやらねぇからな、覚悟しておけ」

「……そんな言い方されると怖いわね……」



その言いぐさとは反対に、昔の粗暴な言動をしていた彼からは想像つかないくらい優しくアサギの髪を撫でるリヴァイ。
頬を擦り寄せて素肌がピッタリ触れ合ってる所が温かくて、冷えた身体はもっと欲しいと貪欲になる……



「クソ……ダウンコートが分厚くて邪魔だな。寒ぃし、そろそろ車戻るか」

「そうね……っ、わッ!?」



アサギの背中に回していた腕を解くなり、そのまま少し屈むと片腕を膝辺りに落とし一気に抱き上げ、“お姫様抱っこ”をした。



「さて、行きますか……“お嬢様”」

「…………気持ち悪っ……」

「………俺も思った……」



何年経っても、顔を会わすとあの頃のような他愛もないやり取りをすることができることに底知れぬ喜びを感じる。
今の二人はきっと……他の恋人達も羨む程の幸せオーラを発しているに違いない。

再びリヴァイは庭の小道へと足を進めた。
先程通った時とは180度違う気分のせいか、青と白を基調としたシンプルで大人向けのイルミネーションが、まるで自分達を祝福してくれているかのような…違う景色に見えた。



「どうでもいいことだが、何でこんな雪の降る日にそんなヒールの靴履いてんだ、お前。」

「…話した通り最近運気良くないから、偶然朝のテレビでやってた占いでラッキーアイテムがヒールの高い靴って言っていたのに縋ってみたの……。普段は占いなんて信じてないんだけど…。でもこの靴のせいで転んでメトロにも乗り遅れるし……踏んだり蹴ったりのバッドアイテムだったわ。」

「だが……ヒール折れるほど派手に転んでなけりゃ、メトロの終電にも間に合ってただろうし、あの場所でタクシーを拾うこともなかった。もとを正せば、詐欺野郎に引っかかることなく、私生活も万事順調ならその靴を選んで履いてなかったってことだろ?お前に起こった悪いこと全部が、この靴を通じて俺に繋がったんなら最強のラッキーアイテムじゃねぇか。お蔭でこうやって抱き抱えたりして無駄にひっついていられるしな。」



……ちゃんと…ラッキーアイテムだったのね……

一時は捨ててやるなんて言ってたことを後悔して、心の中で靴に謝った。
修理に出して綺麗に直してあげなきゃ。
そしてリヴァイの言うように、忌まわしく不吉な出来事全てが今への布石なら……現金なやつかもしれないけれど、全部許せるような気がする。



「言い忘れてたが、もちろん結婚前提だぞ……いいな」

「え!いきなり?!……よほどでない限りは返品不可ですが、宜しいのですか……?結婚資金も…ないのに……」


「男に二言は無い。お前とは昨日今日出会った仲じゃねえだろうが。結婚資金なんて、んなもん要るワケねぇだろ。身一つで嫁に来い、それだけだ」



これはプロポーズなのかと聞くも、リヴァイはそうではないが急がず待てと言う。
よく分からないけど…ただでさえほんの数時間の間で色々あって胸がいっぱいなところを、余計に期待をしてしまう言い方をするリヴァイに煽られて……私の気持ちはショート寸前だ。


きっと――、この先は幸せなことが沢山待っているに違いないと、期待に胸を踊らせながらアサギは恋人の胸に顔を埋めた…





「――それとアサギ、卒業ん時のプロムで俺の前で他の男と踊りやがったこと……根に持ってるからな」





前途多難なのには変わり無いけれど――…


9/11


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