07.take me down


雪がチラつく程の寒さを忘れちゃいそうなくらい、リヴァイの身体と触れ合っているところが温かい…
しがみ付いているのは彼の背中で、ダウンコートだからよくは分からないんだけど……彼の身体は硬く、鍛えられている感じがして…そんな男らしさに不覚にもドキリとする。

整備された山道を進んで行くと小さなアーチのあるゲートに差し掛かった。
無施錠だったそのゲートの扉を開けて中に入ると……木々が色とりどりの電飾やオーナメントで飾られたイルミネーションの綺麗な公園みたいな所だった。



「……綺麗……ここは……?」

「ホテルの庭だ。」

「え……?!どういうこと?……勝手に入ったら駄目なんじゃ……」

「あとで説明するから大人しく担がれてろ。」



とりあえず言われた通りに黙っていると、リヴァイは黙々とイルミネーションの素敵な庭の小道をどんどんと奥へ進んで行く………
自分の頭の中は良くも悪くもリヴァイで一杯なのに、彼は今何を考えているんだろうと思わずにはいられない。
一人イルミネーションを見ながら悶々としていたら、着いたぞと足を止め、屈んで丁寧にゆっくりと私を下ろしてくれた。



「足、大丈夫か?」

「ええ何とか…。気を遣わせてごめんね……」



その手摺りに掴まれと、リヴァイの冷たい手が私の手を掴んで導いてくれた。
すると……そこは展望台のようになっていて、湖周辺が見渡せる場所だった。
夜だから湖は暗くてよく分からないが、レイクサイドパークの街灯やイルミネーションがとても“ロマンチック”だ。

……いじめっ子だったあのリヴァイが紳士の様になっているギャップに戸惑いと、ときめきを覚えて冷静な自分が揺らぐ……



「凄い眺め……湖のところに山があるのは知っていたけど登ったこと無かったから、こんな所あるなんて知らなかったわ!ホテルとか、あったのね」

「ホテルは今月オープンしたばかりだ。」

「……どうしてそんなに詳しいの?」



横に来て、手摺りに肘をつき凭れ掛かると、リヴァイは遠くの景色を眺めながら口を開いた。



「このリゾートホテルの内装関係を俺が仕事でやったんだ。庭の電飾は本来俺の範疇外なんだが、依頼されたんでやってみた。」

「………ん?待って、リヴァイはタクシー運転してなかった?どういうこと?」

「タクシーは……知人のタクシー会社がこの年末に人手不足らしくてな、たまたま俺が二種免許持ってたもんだから助っ人頼まれた。平日の夜だけしかやってねえし、まぁバイトみてぇなもんだ…別に金には困っちゃいねえが。本職は、世間一般ではインテリアデザイナーと言われてるやつだ。建築デザイン事務所で働いてる。」

「……本当?!何か色々ビックリなんだけど……。でも、いくらリヴァイが手掛けたホテルとはいえ、庭…勝手に入っちゃ駄目なんじゃない?」

「ここはクリスマス限定で一般人にも開放されている、見ろ…他にもいるだろ。俺らは裏から入っただけだ……お前怪我して靴壊れてるから正面から入らねえ方がいいかと思ったんでな。」



さっきは気付かなかったが、リヴァイの視線の先にはこんな時間にも関わらずチラホラ人影が見えた。

……カップルばっかり……そうよね、イヴの夜だもの……
――…他の人から見ると私らも恋人同士に見えるのかしら……

なんて勝手に考えてる自分の心を茶化そうと躍起になって、どうでもいいことが口を衝いて出てきた。



「……男前には磨きがかかってるみたいだけど、背は私と少ししか変わらないのね。」

「お前はヒール履いてるだろうが。それ脱いだら俺の方が結構高い。」

「でもこれくらいの身長差、私は良いと思うわ。背が高い人とよりもキスしやすいじゃな……ぃ……」

「……ほう……。……試すか?」



しまった……と自分のウッカリ発言に後悔した時には遅く、リヴァイの心を射抜くような鋭い視線が至近距離で向けられ心臓が痛いくらい跳ねた……



「あ……、あ、挨拶のキスのことに決まってるじゃない!そ、そーだ!え〜と……あの、私、何か飲み物買ってくるっ!さっき自販機見えたし!って、痛ぁッ!!」

「…………俺が買ってくる。お前そこでじっとしてろ、いいな」



リヴァイはコートのポケットに手を入れ、大きく白い溜め息をつくと元来た道を通って行った。

アタフタしてるのは私だけで……――空回りばかり……
……でも…どんな形でもこうやってリヴァイにまた会えて良かった……最初の寂しさなんてとっくに消えちゃったし……



「………雪、止んだな。」



振り返ると、もうリヴァイが帰ってきていて……ほらよとミルクティの温かい缶を手渡してくれた。



「ありがとう…。見て、綺麗な満月が出てる…湖に映って綺麗……。それにしても戻ってくるの早かったわね……」

「案外近かった。つーかお前の悪運、すげぇな。最初にお前の紅茶買うのにボタン押したら、温かい野菜ジュースが出てきたぞ。」

「え?!……じゃあこのミルクティはリヴァイのじゃ…?もう一つ買えば良かったのに、お金は私払うから。」

「買おうとしたが万札しか残って無くて買えなかった。もう俺はいい、買いに戻るの面倒だからお前だけ飲め。」

「………私が紅茶好きなの、覚えていてくれたのね、ありがと」



自分が飲み物買いに行くとか言ってしまったから余計に面倒なことさせてしまったと自責の念に駆られつつ、缶を開けようとするが…寒さで手がかじかんでプルタブが起せない……



「爪割れるぞ、貸してみろ」



そう言って缶を取ると、サッと開けて返してくれた。
その彼の優しさで――……今終わりにしないと駄目だと思った……もう、心臓が持たない……



「……。ねぇ、リヴァイ……」

「何だ」

「………私……あなたが初恋だったの……」

「……。」

「最初はいつもちょっかい出してくる嫌な人って思ってたけど、いつの間にかあなたのことが好きになってた。高校で別々になった時に、この初恋を封印して…忘れられたと思っていたんだけど……そうじゃなかったみたい。こうしてリヴァイと居ると……何て言ったらいいのかしら……ソワソワして落ち着かないの。笑っちゃうわよね、子供みたい。でも……こうしてまた、あなたに会えて嬉しかった……ありがとう、リヴァイ……」

「……相変わらず要領を得ない言い方をするんだな、お前は。……で?」

「…………で?えと……私は…リヴァイのことが、好き……だったの……」

「"だった"?」



―――…彼の真剣な目に見透かされて……ダメ、逃げられない……



「…………今も………――なんて、ゴメン、やだ私何言ってるんだろう、あはは……」



目を合わせられなくなって、場を誤魔化すようにミルクティを飲みながら湖面に揺れる月を眺めていると、リヴァイが私の缶を奪って一口飲んだ。



「あっ、それ……、私口付けてるのに……ッ」

「別にいいだろ、今からこっちで直接するんだ……」



気がついたときにはリヴァイの唇が私のに重なっていて……触れるだけの、羽のように軽いキスをした。
……私は驚きの余り、何がどうなっているのか分からなくて……
息を忘れるほど硬直してしまった……



「………面白ぇツラしやがって。こういうときは目ぇ閉じるもんだぞ」

「……あ、あの……リヴァイって……彼女とか、奥さんとか、パートナーとか…いるって言ってたじゃない!」

「俺はそんなこと一切言ってねぇ。一人じゃないとは言ったが。」

「……ほら…だったらこんなことしちゃ……」

「お前と一緒にいるじゃねぇか。」

「――…え?……私のことだったの?じゃ、あなた……恋人とか……」

「居たらこんな日にタクシーなんてやってる訳ねえだろうが……。」



キスできるほど元々近かった距離なのに、リヴァイは私の腰に手を回してグッと引き寄せ、二人の体を密着させた。
そして額をコツンと合わせるとまた……真剣な目……



「それで?俺の気持ちはさっきの通りだが……お前はどうなんだ?」

「……分かってるクセに………」

「そういや、お前から見える方角に庭の時計台があるだろ、何時だ?」

「時計…?ちょうど0時よ……、イヴ終わっちゃったわね」

「あぁ。……今日は何の日か覚えてるか?」

「今日はクリスマスじゃ………………あ、リヴァイの誕生日!!!」

「そうだ。…てことで、このプレゼントは……遠慮なく貰うぞ」

「…、………んッ…」







―――…10年越しに実った初恋は、ミルクティのように甘く……


二人は離れていた時間を埋めるかのように、月が照らす寒空の下…熱くお互いの唇を食んだ……――


8/11


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