05.calm down


「――…大人しくなんて座ってられません!……何考えてるんですか、あなた!!」



足が痛むのも忘れ、助手席シートに手を掛けて乗り出して言った。

落ち着いて……まずは落ち着いて考えなきゃ、えと、この運転手は何が目的なの……
普通はお金よね……―――誘拐!?狙いは身代金かしら、うちそんな裕福な家庭じゃないから誘拐する人間違ってる、お門違いもいいとこ!でもお金取るつもりないって言ってたよね?じゃ、誘拐でも逆強盗でもないのかしら……

……拉致!?そうよ、これが一番有力じゃない!?クリスマスイヴの夜に独りで寂しいからって、最初から連れ回すのが目的で暇そうな女を物色して回ってたんだわこの運転手!若しくは人身売買!?私売られちゃうの!??

そ、そうだわ通報しなきゃ!とにかく警察に……



「や……嘘、……壊れてる!」



震える手でカバンから携帯電話を探して取り出してみると、画面のガラスが割れ、電源が落ちていた。
転んだ時の衝撃で壊れたのだろう……メガネのサンタが拾ってくれてたから壊れているのに今まで気がつかなかった。

……どうしよう、私どうなっちゃうの……



「……。おい、落ち着け」



「お、落ち着けるワケないじゃないですか、この状況でッ!」




タクシーはその間も停まることなく、湖の近くの、いよいよ人気の無い暗い山道に入っていく。

車が停まったら、とにかくここから逃げなくちゃ!でも足がこれじゃ……しかもこんな山の中……
自分に貞操と命の危機が迫っていることを感じ始め、怯えるアサギ……――

運転手は、それを横目に軽く舌打ちをして車を減速させると、街灯のある路肩にハザードをつけ車を停めた。
そして後部座席の方に向かって体を捻りアサギの目を直接見ながら言った。



「なあ、アサギ。……俺を忘れたとは言わせねぇぞ、“鈍感女”」





――…どん…かん、女……?





『おい、鈍感女。宿題やってんなら見せろ』

『大したことねぇのに学校休んでんじゃねぇ、鈍感女』

『鈍感女のクセに男と喋ってんじゃねえよ』





――鈍感女!!





「………あ!あ、あなた…もしかして、り、り、………」

「やっと思い出したか、鈍感なヤツめ。」

「リヴァイ!!」



中学校時代の3年間、リヴァイとアサギは同じクラスだった。

席は決まっていなかったので、いつもリヴァイはアサギのすぐ後ろの席に座ってきて……椅子を蹴ったり、ペンで背中をつっついたり、髪の毛を引っ張ったりと常にちょっかいを出してくるので、アサギはずっと嫌なヤツだと疎ましく思っていた。

そんなアサギの気持ちに変化があったのは中学3年の時。
アサギの弁当をよこせと強引に持っていったクセに、代わりに彼女の好きなベーグルをわざわざ校外の店で買ってきて『食え』とぶっきらぼうに言って渡していたリヴァイを見た友人が、『彼、アサギのことが好きなんじゃない?“鈍感女”とか言ってるしさ』とか言ってきた。

それまでは、どうして自分にばかりこんな嫌がらせをするのかと悩んでいたのだが、どこか点と点が繋がったような気がして……その日以来ちょっかい出して来られても、今までのような嫌だという感情は薄れていった。
そしてリヴァイが自分のことを本当に好きなのだろうかと、無意識に探りを入れているうちに、彼のことを考える時間が日を増すごとに増えていき……いつの間にかアサギ自身がリヴァイを意識するようになっていた。

しかしその後、二人の間は進展することなく卒業を迎え、別々の高校へ…――



「お前が俺の許可無く女子校に進学して以来だな。」

「そんなことより…リヴァイ!本当にあなた、あのリヴァイなのね!?」

「ああ。もっと早くに俺だと言おうと思っていたが……男に騙されただの胸くそ悪い話聞かされてから、少し脅かせてやろうと気が変わってな。」



そう言うとリヴァイは前に向き直り、再び車を発進させた。
尚も行き先は変わらないようで山道をどんどん上って行く。



「本当に久し振りね……リヴァイ。でも、脅かすなんて酷い!凄く…怖かったんだから……私このまま…――」

「山奥に連れてかれて犯されるとでも思ったか」

「…そうよ。もう、殺されてもおかしくないとも思ったんだから……」

「……そりゃすまなかったな。」

「……え…?聞き間違いかしら……リヴァイが私に謝るなんて…!」

「あれから十年以上も経てば丸くもなるさ……未だにお子様なのは、お前だけじゃねえのか」

「そうやって意地悪な口をきくところは変わってないわね。」

「ったく…冗談通じねえのも相変わらずだな。……だが、だからこそある意味安心した。もうすぐ着く、コート着て降りる準備しておけ」







リヴァイが……あのリヴァイがここにいる……

…それにしても、私をどこへ連れて行こうとしているのかしら……







………――さっきまでの不安な気持ちの代わりに芽生えたのは、

根拠のない心の高鳴りでした……――


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