16.《無茶なお願い》


「今……何と…………」






開花時期が終わりに差し掛かった白詰草の上を、木枯らしが吹き抜け、落ち葉を散らしてゆく。










―――こういう展開を予想していない訳では無かった。



アサギが調査兵団に来ることが決まってから、幾度かオリヴィエに手紙を出したが、それら全てが宛先不明で返送されてきた。
彼の住所はウォール・ローゼの、数ヵ月前にエレンが壁を塞いだ所からそう遠くない場所で……
場所が場所だけに何らかの事情でそこに住めなくなり転居したか、或いは……。

ただ、彼が死亡したという仮説は一番当たって欲しく無かった。

突き付けられた現実を飲み込むのに苦労しつつも、二の句を継がねばと渇いた口を動かそうとした――…

その時……



「エルヴィン」



後方から聞き覚えのある声で呼ばれた。
振り向くと、そこには不機嫌そうな顔で脇にエルを無造作に抱えた、うちの兵士長が立っていた。



「リヴァイ、どうした。何か用か?」



エルの事について聞きたいのだろうが、無性にからかってみたくなり、敢えて惚けた返事をした。



「何か用かじゃねぇ、何なんだこのガキは!洗濯の邪魔しやがって………ん?この目に髪の色……おい、まさか…………お前の隠し子とか抜かすなよ」

「だとしたら、どうする?」



リヴァイが下ろすと、エルは一目散に私とアサギの所へ走って来た。
その光景を見て何やらリヴァイはさらに勘違いをしたようで、驚いているような表情になった。



「お前ら……ひょっとしてそういう関係か?!このガキの母親は……まさか……アサギ…」

「公にはしたくないんだが……リヴァイ、その通りだ」



それを聞くや否や、リヴァイは途端に鋭い眼つきで私を睨んできた。

やはり私の思惑は当たっていたようだな。リヴァイはアサギのことを……



「何か不満でもあるのか?明らかに私情が入っているような口振りだが。」

「……あ"?……テメェ、」



すると、様子を見ていたアサギが仲裁に入ってきた。



「――…あの、お取り込み中大変申し訳ないのですが……リヴァイ兵長、私はエルヴィン団長とはどういう関係でもないですし、エルのママでも何でもないんです。エルヴィン団長も冗談を言うならもっとそれっぽく言わなきゃ……顔も口調も全然洒落になっていなかったですよ。エルもエルヴィン団長に似てますし、余計混乱しますから。」

「……何だそれは、じゃあこのガキは何だってんだ」

「この子はですね、…――」



そう苦笑いをしながらアサギがリヴァイに説明してくれた。

少し、大人げなかったか……




「……それならそうと、何故最初から言わない……」

「そうカッカするなリヴァイ、皺が増えるぞ?」

「お前に言われたくねぇ!で、子守りを放棄してるナイルはいつ帰って来るんだ」

「―――呼んだか?相変わらずだな、リヴァイ。」



そこへ良いタイミングでナイルが戻ってきた。



「盛り上がっているところすまないが、エルヴィンを借りていく」

「ナイル、視察とやらは終わったのか?」

「あぁ。兵団の装備品関係で聞きたいことがある、少し付き合ってもらうぞ。……アサギ、久方ぶりだな。調子はどうだ?」



明らかに重苦しい雰囲気がナイルとアサギに漂っている。
恐らくリヴァイも何となくこの違和を感じているのだろう、眉間に皺を寄せ、観察するような目で二人を見ている。



「ナイルさん……、ご無沙汰してます。ご覧の通り、何とか生きてます……」

「そのようで安心した。あと、忘れ物。部屋に置いてあるから確認しておいてくれ。」

「え?……分かりました、見ておきます…」

「それから、無用心だから部屋の鍵はちゃんと掛けておけ。開いてたぞ。」

「はい…すみません。」



そこまで言うと、しゃがんでアサギの足元にしがみ付いているエルの頭をクシャリと撫でて、優しい声色で話しかけた。



「エル、エルヴィンおじさんと用事してる間、このリヴァイおじさんと一緒にいるんだぞ?」

「うん、わかった。」

「待て、どういうことだ?!冗談じゃねぇ、何でこんなガキ!」

「リヴァイ、アサギと二人で見てやってくれ。私からも頼む。」

「……くそっ!今回だけだからな!」



心許ないが、この二人なら大丈夫だろう―――…

そう信じてナイルとその場を後にした。


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