01 − その後の二人 (1/37)
 それは、春の突風のように突然起きた。
「いやああああああああ!!!!!!」
 その悲鳴は船全体に響き渡り、甲板で鍛錬していた者、洗濯物を干していた者、コックもドクターも見張りも、皆が声の出処へ駆けつけた。
 ギュウギュウになった廊下で、クルー達が何だ何だと騒がしい。
「見張りまで来てどうする……」
 その様子をかなり後ろの方から眺めつつ、ペンギンは肩をすくめた。
「おう、ペンギン!」
 おはよう、とその後ろからシャチが声を掛ける。
「アハハハ! 何でみんな集まってんだよっ!」
 全員集合したハートの海賊団に腹を抱えるシャチだったが、ペンギンは「お前も来ただろう」と心の中でツッコミを入れる。
「仕事を放り出した奴は戻れ、見張りは特にな。別に大した事が起きたわけじゃないだろう」
 人が捌けた廊下を進み、ペンギンが“その部屋”の前に立った。
 軽くノックをして「おれです」とひと声掛ける。返事を待たずにドアノブを捻ると、後ろに居たクルー達がズイッと前屈みになった。
「“船長”、“イユ”、どうし――」
 その光景に、ペンギンは言葉を切った。
 ローの部屋には机、本棚、ソファセット、テーブル、標本……などなど、そう広くない部屋に様々なものがあったが、どれも小奇麗にされていた――が、一箇所だけ“とても乱れている”ところがあった。
「うううっ……」
 それはベッドである。
「ぺんぎんんんん……」
 ダブルサイズ程のベッドの上には、この船のクルー、イユが泣きそうになりながら座り込んでいた。
 そして。
「……船長…………?」
 そのベッドの脇に、この船の船長、トラファルガー・ローが頭から豪快に落ちていた。
「…………」
 ローは上半身裸でズボンだけ身に付けていた。帽子は壁に掛かっている。
 ペンギンも後ろに居るクルーも、皆ポカンと口を開けていた。
「……キャプテン、起きたら……?」
 ベポだけが、いや、ベポでさえ、恐る恐るローに声を掛ける。
「そうだな」
 ローがそれに応え、腹筋を使ってそのままベッドへ起き上がると、見守っていたクルー全員が呆れと安堵が混ざった息をハァァ、と吐いた。
「朝から何をやってるんですか、船長」
「落ちた」
「へ?」
 ローは同じベッドにペタンと座ったままのイユを顎で指す。
「コイツに落とされた」
 寝起きらしく、眠そうに後頭部をさするローを再びポカンと見つめるクルー達。
「だ、大丈夫っ? ごめんね、ロー……」
 イユが申し訳無さそうに、ローに近寄る。と、差し出された手を掴んだローはイユを引き寄せ、そのまま口付けた。
「まずは“おはよう”だろう」
 喉で笑いながらイユの顔を覗き込むローはとても楽しそうだ。
「――わあお……」
 後ろで見守っていたクルー達だったが、朝から“こんな様子”を見せつけられ、思わず謎の感嘆の声が漏れる。
「ッッッ…………!!!!!」
 しかし、真っ赤になったイユは、感動などしていられなかった。
「いやああああああああああ!!!!!!!」
「なっ……!?」
 珍しく柔らかな笑みのローを、再びベッド脇へと突き落としたのだった――。



「春一番が止む前に 〜その後の二人〜」
 short novel -1-





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