02 − その後の二人 (2/37)
「落ち着いた? イユ」
 ベポがベッドに腰掛けると、ギシッと音を立てる。その隣では、イユがマグでココアを飲んでいるところだ。
「うん、ありがと。ベポ」
 イユが微笑むのを見てホッとしたベポだったが、同時にソワソワし出す。“朝の事件”のせいで、朝食の時間が少し遅れている――合図の鐘が鳴るのを今か今かと待っているのだろう。
「――で、どうしてあんな事になったんです?」
 ペンギンが酒を注いだグラスを、向かいのソファに座しているローに渡しながら訊ねた。
「……」
 この部屋――船長室には、イユとベポとペンギン、ローとシャチが居た。他のクルーも興味津々でドアの前に張り付こうとしていたが、持ち場を離れるなとローに一喝されて、つまらなそうに散っていったのだ。ベポを含めた三人は、ローの許可によりここに居る。
「おれに聞くな。おれは被害者だ」
 ローは目覚めのウォッカを飲んだものの、欠伸をしてそのままソファに横になった。まだ眠そうである。
「じゃあ、イユに聞くか?」
 シャチがソファの背もたれに手を回し、後ろを向いた。
 ベッドの方を向いているソファに居るのがローなので、その向かいに座るペンギンとシャチは、イユの方を見る為に後ろを振り返る事になる。
 ペンギンとシャチが振り向くと、イユはそちらではなく、ローへ向かってムッと顔をしかめた。
「被害者は私なんですけど」
 失礼ね、と云いながらイユがココアを啜る。
「私はゆうべ、ローに酒を飲ませてやるなんて珍しい事云われたから、船長室にお邪魔して二人で飲んでたわけ」
 確かに、ソファに挟まれたローテーブルには、ノースブルー特産酒の空ビンがいくつも佇んでいたが。
「へェ、船長が酒を……」
 それらを眺めて得心の行かなそうな表情を浮かべたシャチだったが、ペンギンは先を促した。
「それで?」
「それでね、気付いたら“ここ”で寝てたの」
 イユはベッドをバフバブと叩き、ベポが頷く。
「アイアイ、キャプテンのベッドだね!」
「そう、われらがロー船長のベッド! そして私は“ここ”に寝かされていた被害者なの。何でこんな所で寝ていたのかなあ、私は!?」
 バフンバフンと強く叩かれたベッドが揺れ、その上にあったクッションが床に落ちてしまった。
「……別におれのベッドでも構わねェだろう。ソファが良かったのか?」
 まァ寝心地は悪くねェな、とローが身をよじる。
「そりゃソファよりベッドの方がいいけど……って、そうじゃないーッ! 私が云ってるのは、何で起こしてくれなかったのかって事なの! お酒飲んで潰れちゃったのは何となく想像つくけど、起こしてくれれば自分の部屋に――」
「云っとくが、お前は起きなかった」
 ローがキッパリと答えると、イユがウッと声を上げた。酒を飲んで潰れると、その後の記憶が少々無くなるので、絶対起きれた筈だとは云えないのだ。
「ああ、イユは酒で潰れたら絶対起きねェっすね」
 シャチも頷く。何度か酔って眠ってしまったイユを運ぶ羽目になったシャチだったが、どうしても起きない事は知っている。
「んぬぬ……」
 イユがどう反論しようか迷っていると、ローは仰向けになり、クク、と笑いながら目を閉じる。
「いくら声掛けても揺すっても起きねェんで……とりあえず運ぶかと思って抱きかかえたら、何とイユがしがみついてきたもんだ。まァ気分は良かったな。で、放すのも野暮だと思って、そのままベッドに入って……おれも寝た」

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