12/11/30〜13/02/24
トラファルガー・ロー

深海まで手を繋いで



「ねえ、ローは海に潜った事、ある?」
「お前、心臓取り出されたいのか」
 ローは“メス”の態勢になり、こちらを睨みつけた。
「違うって! ちょ、ローさん、右手! しまう!」
 私は慌てて、ローの右手を掴む。本当にやりそうだから怖い。
「お前が寝呆けた事云うからだろ」
「だって、いつ頃ローが悪魔の実を食べたか知らないし。食べる前だったら海で泳いだり出来るでしょ?」
 ハッ、もしや元からカナヅチ――と、哀れんだ目で見た瞬間、「スキャン」と声が聞こえ、懐から何かが消えた気が――。
「あ! 私のおやつ!?」
 ローの手には、私のつなぎのポケットから“スキャン”されたあんまん(厨房からくすねた)があった。
 それを面白そうに弄びながら、ローは私の頭をコツンと小突く。
「普通に考えてみろ。おれは“ノース”出身だ、夏だって海に入るバカはいねェ」
「ああ、そっか……じゃあ泳いだ事無いんだ」
 頷きながらローの手の内にあるおやつを取り返そうとするが失敗。
「温水プールは家にあったが、ガキの頃はそんな事より、カエルとかヘビをバラすのに夢中だったからな」
 むくれる私を不敵に笑い、手の平の上でまだ温もり残るあんまんを転がすローが、お坊ちゃん発言。
「根っからの外科医ですね、キャプテン」
「それで? 聞いた理由は何だ」
 そのままあんまんに口をつけるローには声も出なかった。
「……何だよ、面倒臭ェ奴だな。ほら」
 半分以上食べられてしまったあんまん(おやつ……!)を、ギュムと私の口に押し付け、ローは欠伸をした。得物を抱え、深く座り込むのは、昼寝の態勢――。
 私は慌ててあんまんの欠片を飲み込み、口早に喋り始めた。
「あっ、あのね! 私、海で泳ぐのが好きなんだけど、ある程度潜ってから水面を見るとね、凄くきれいなの。太陽の光がキラキラしてて。お魚とかが上を泳いでいけば、それは影になって……海の一部になった気がして凄く心地良いの」
 知ってるかなーと思って聞いたんだけど、とローの腕を引っ張り、昼寝を引き止めようとする。
「でもそっか、潜った事無いか……。見せてあげたいんだけどな、あの光景――」
 魚と一緒に泳ぎ、水面を仰いだ時。それはきっと、船ごと深海まで潜ると云う、新世界前の景色とはまた違う筈なのだ。
 残念、と肩を落とすと、目を閉じていたローが片目を開いてこちらを見る。
「お前が一緒に潜ればいいだろ」
「え?」
 首を傾げると、ローは私の口の端を親指で触れた。離れていくその指を見れば、あんこが付いていた。ローはそのまま、それをペロリと舐める。
「そっ、それ……私の!」
 照れより食い意地が勝った私がそう返せば、ローはフン、と肩をすくめた。
「……海の中じゃ体が動かねェ、おれはそのまま沈むだけだ。だからお前がおれと潜って、息がもたなくなったらお前がおれを海面に連れていけばいいだろ。浮力があるからそんなに重くねェ」
 ローと手を繋いで海に潜る。二人で一緒に眩しい水面を見上げる――。
「……うん、いいよ」
 考えただけで少しニヤけてしまって、それを誤魔化そうと素っ気なく返してしまったけれど。
「早速行くか?」
 立ち上がって手を差し出したローの声が、どことなく弾んでいるように聞こえたから、
「行く!!」
 私は隠さずに笑ってその手を掴んだ。
 幸いここは夏島。船からビーチに下りてみれば、キャッキャとクルーたちが遊んでいる。
「あ、船長! 珍しいっスね〜、船長がビーチに出てくるなんて!」
「ロー船長、一緒にビーチバレーなんかどうですか?」
 すぐに声を掛けてくる嬉しそうなシャチとペンギンに服と帽子を、日陰でダレているベポに刀を預け、ローはさっさと砂浜を歩いていく。
「おれは少し潜る」
「はい、お気を付けて! ――って、え? ええええッ!? 今、ももも潜るって云いましたッ!!?」
 途端に青い顔になるクルーたちを尻目に、私も素早く水着になってローを追いかける。
「うるせェなァ、アイツら……」
「当たり前でしょ! 危険過ぎるもの……だから、しっかり掴んどくからね」
 ぎゅ、とローの手を掴み、波打ち際に立つ。
「あァ……お前におれは預けたからな」
 ニィ、と笑ったローと穏やかな波を見つめ、息を揃え、足を踏み出す。
 バシャバシャと水が跳ね、目指すはこの先、一緒に潜れるところまで。
「船長ォォォッ!! ホントに行っちまったァーー!!」
「アイツだけに任せておけるかよ! こうしちゃいられねェ、おれたちも潜るぞ! 船長の安全確保だ!!」
「オーッ!!!」
 そして結局、みんなで潜って水面を見上げる事になるまであと少し。
「アイツら余計な事を……!!」
 ローの機嫌が悪くなるまでも、あと少し。









 Fin.









→→→→→
 再びローでした。冬真っ盛りの時期に夏島のお話でしたが……季節丸無視グランドラインの醍醐味です。
 ルフィはもともとカナヅチだけども、ローは泳げたのかな? と思ってこんなお話です。「ちょっと泳いでくる」って似合いそうですが、クルーにしたらとんでもないので、最終的に賑やかになってしまいました。
 拍手&コメント、どうもありがとうございました!

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