12/08/21〜12/11/30
トラファルガー・ロー

センチメンタル



「外を歩く時はおれに許可を取れと云った筈だが?」
「云った? そんな事」
 後ろから飛んできた声に首を傾げながら振り向くと、ローは不機嫌さをあらわに、眉間に皺を寄せる。
 私はそんなローに肩をすくめた。
 ――ここは冬島で無人島、そして今は夏。私は秋用のジャケットを羽織り、一人で散策に出てきていた。
「はは、ごめんね。だってお昼寝してたから、起こすのも忍びなくて」
 ローはさっきまで食堂隣にあるロビーで、ベポと一緒に気持ち良さそうに眠っていた。決して起こさないようにと、クルー達は細心の注意を払って活動していたのだ。
「勝手に出歩かれる方が困る。起きた時に傍に居ねェのは最悪なパターンだ」
「ベポが居たでしょ」
 クス、と笑って木々が生い茂る道の先を行こうとすると、クッと何かが引っかかった。
「お前が居ねェから目覚めは最悪だと云ってる」
 いつの間にか距離を詰めていたローに手首を掴まれている。その腕の先を辿っていくと、何とも恐ろしい不機嫌顔が待ち構えているのかと思いきや、予想外の表情が浮かんでいた。
「どうしてそんな顔するの?」
「おれは元々こういう顔だ」
「ううん、違う……いつもと違うよ」
 ローに向き合って首を振ると、“その表情”が少し困惑したものになる。
「……おれは、勝手に一人で出歩くなと云ってるんだ。話題を変えるな」
 “その表情”は一瞬の内で、すぐにいつもの“睨みつけ”に戻ってしまった。それを残念に思いながら、私も少しムッとした声で返す。
「だって、ローがベポと一緒にお昼寝するのがいけないんだよ。自分ばっかり……“お前が傍に居ないから腹が立つ”とか“シャチと二人で釣りしてたから不愉快だ”とか――ねえ、私も同じ事思ったりするんだけど、私への配慮は無いの?」
 云い返した私を、ローは少し目を丸くして見つめていた。
「何故そんな顔をするんだ?」
「私は元々こういう顔」
「いや、違う……いつもと違う」
 首を振ったローが不意に腕を引っ張った。私はトン、とその見かけによらず逞しい胸に追突する。そして見かけによらず頼りになる腕に、ぎゅ、と包み込まれた。
「――おれと“同じ”か?」
 躊躇いがちにそんな言葉が落ちてくる。それは”その表情”の声だ。
「うん――知らなかった?」
「あァ。お前が何も云わずに、いつも何処かへ行くせいだ」
 また自分の事を棚に上げて……と云いたかったけれど、ここは一先ず胸に額を擦り付けておいた。
「……おれも気付かずにいるとはバカだな」
 ぽんぽん、と頭を撫でられて今度は手を握られた。互いにひんやりとした手だ。
「歩くか」
 優しく引っ張られて、私は散策を再開する。今度は二人で。
「ね、故郷の島のお話して」
 繋いでいる手を引っ張ってねだると、ローは考えるように宙を仰ぎ、そして微かな笑みをたたえた。
「そうだな……ちょうど今ぐらいの気候の話だ。おれの島だと晩夏だが、そのある日――」
 私はローの少し楽しそうな声を聞きながら、短い夏を歩いた。
 その道は夏らしからぬ肌寒さで、木々は既に紅葉を始めていた。だからなのか、どことなくセンチメンタルな気分になっていたのだけれど、ローの冷えた手が私の冷えた手をもう放さないと気付いたから、心は弾み始めて、きっとローも同じで。だから思わずニヤけていて。
「変な顔するな」
「ローも同じ顔してるけど?」
 きっとローも同じ。センチメンタルは何処かへ飛んでいったから。








 Fin.










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 公式でも物凄く活躍中! 人気絶頂の外科医でした。ローの連載は終わっているので、短篇や拍手などでなるべく書こうと思っています。相思相愛な事は何となくヒロインは気付いていて、ローは実は鈍いので気付かず、でもヤキモチって云う……ローは我が儘そうですよね。そして一枚上手のヒロインです。
 拍手&コメント、どうもありがとうございました!

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