11/10/25〜12/02/21
サー・クロコダイル

彼色



「クロコダイルー!」
 ソファで新聞を読んでいるクロコダイルに、後ろから飛びついてみた。
「……邪魔だ」
 首に巻き付く私の腕を鬱陶しそうにしながら、目は新聞へ注がれている。
「これね、計ってるの」
「何をだ」
 クロコダイルのくわえている葉巻の煙が、もわもわと私の周りに漂う。
「マフラーのサイズ」
 首に抱き付いて、そのまま自分も新聞を眺めてみれば、またも“ルーキー”の一人の懸賞金が上がったとの事。
 まあ、そんな事はどうでもいいのだけれど。
「クロコダイルにね、マフラー編んであげようと思って。体格がいいから、どの位の長さがいいのかな〜って……うん、何となく把握出来た」
 そう云って首への拘束を解き、ソファの後ろに足を下ろした。そして、部屋の隅に置いておいた紙袋を持って来て、クロコダイルの隣へ座る。
 ガサゴソと、袋から毛糸やら棒やらを出していると、それに気付いたクロコダイルがフン、と鼻を鳴らした。
「マフラーなんざ適当に長めに作っときゃァいいだろうが」
 別にサイズを計る程の事でもねェ、と新聞を捲る。
「そりゃそうだけどー」
 ただ抱き付きたかったのもあるが、それはさすがに云えない。
 “帯に短し襷に長し”と云う言葉の通りに、物には適正な長さがあるから――と理由付けしようとして、ふと手が止まった。
「あ、じゃあ拒否はしないんだ?」
 てっきり「そんなモン必要無ェ」とか云われそうだったのに、貰ってくれる気はあるらしい。
 あ? とコチラに目をやったクロコダイルは、“そう云えばそうだ”と云う、何とも失礼な表情で新聞をポイとテーブルに投げた。
「使うか使わないかは別としてな」
 そう云ったクロコダイルは葉巻の灰を落としながら、ソファにふんぞり返る。
「えええっ!? 使ってよー!」
「まァ……まず完成したらの話だろう」
 その言葉にギクリとする。何せ編み物なんてやった事が無いし、今まさに“初心者の為の編み物本”を見ながらやろうとしていたところだ。
 そんな私の心が顔に出ていたのだろう、クロコダイルはクク、と喉で笑う。
「かっ完成するし! どっかの鰐さんは寒がりだから、冬島でも寒くないように編んであげるの!」
 その言葉で自分に喝を入れ、ソファに足を投げ出すと寒がりの鰐に背を預けた。
 本を開き、棒と糸と格闘を始めた私の後ろで、フゥと長く煙を吐く音がする。
「そりゃありがてェこったな」
 ――一応、楽しみにしといてやる。
 笑みを含んだ声と共に、クロコダイルがポンポン、と私の頭を撫でた。
「……っがんば、る……!」
 顔が赤くなった事に気付かれたくなくて、何とかそう答えると、必死に手を動かす。
 クロコダイルは解っているのかいないのか、ただ優雅に葉巻をふかすだけだ。
「……おい、そこ間違えてんじゃねェのか?」
「あ、ホントだ。ありがと……。え、クロコダイル分かるの?」
 これなら予定より早くに完成しそうだ、と彼色の毛糸の玉はコロコロと転がって行った。









 Fin.









→→→→→
 鰐のヒロインはいつも幼女チックになってしまうので、今回は違う雰囲気にするぞ! と書き始めたのですが、なんかやっぱり天真爛漫無邪気な女の子になってしまいますね。次書く時は大人の女性相手にしたいなと思ったり。
 ちなみにタイトルの色が私的イメージの「彼色」です。
 拍手&コメント、どうもありがとうございました!

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