11/04/26〜11/10/25
ユースタス・キッド

P.S.(追伸)



 今夜の海はいつにも増して静かだ。
 夜も更けた頃に島に着いたから今夜はこのまま夜を明かす、とキッドが云ったので、入り江付近に錨を下ろした船は、湖に浮かぶ小さなボートのように微かに揺れるだけ。
「勝手に上陸してんじゃねェよ」
 船からこっそりとロープを伝い、入り江に広がる浜辺に降りていた私を見つけたのは、酒を片手に不機嫌そうに歩いてくるキッドだった。
「私は浜辺にしか降りてないわ。今日は海が凄く静かだったから、海と空を眺めるには船からよりも浜辺からの方が綺麗だと思って」
 小さく波が打ち寄せるギリギリのところに腰掛けて、水平線と空の境目に目を凝らす。いくら凝らしても、この暗闇では何も分からないのだが。
 ただ、空が海と違うのは、きらきらと光る星を纏っている事。
「まァ、静かな夜っちゃァ…そうだな…」
 グビリと酒を口にしたキッドが私の隣へ腰を下ろす。
「…みんな寝た?」
「あァ、明日から騒ぐ為にだろ」
 島に着いた日は必ず宴になるが、今日は明日の為の体力温存と云うところだろうか。船の方からは何も聞こえない。
 暫く二人で黙ったままだったが、沈黙を破ったのはキッドの方だった。
「……何かあったか」
「……え?」
 首を傾げながらキッドを見ると、こちらをチラリと見て、すぐにまた海の方へ視線を戻してしまう。
「……イヤ。何でもねェ」
 そう云って、また酒をグビリ。そして、今度は少し顔を上げて空を見る。
「…おれは此処に居ねェ方がいいか」
 キッドらしくない言葉に私は目を少し見開いた。そんな事を聞くなんて珍しい。
 けれど、それは不器用なキッドなりの心遣いだったのだろう。自分で口にした言葉に居心地を悪くしたのか、ソワソワと落ち着きが無くなる。
 そんな様子を見れば、心が自然と温かくなった。
「…ううん。一人になりたかったから此処へ来たけど、そろそろキッドの声が聞きたいなって思ってたから…そしたらキッドが来たでしょ。びっくりしたの」
 私がニコリと笑えば、キッドは少し安心した表情を浮かべて、また酒を飲む。
「…そうか」
 何故分かるのだろう。心が沈んだ時…一人になりたい時は一人にしてくれて、寂しい時は傍に来てくれる。云っていないのに…そしてそれは、凄く我儘な感情の変動なのに。察する事が出来るのは…やはりキッドだからだろうか。
「キッド…」
 考えていたら鼻の奥がツンとしたから、慌ててポスッとキッドの肩に寄り掛かった。
「…何だよ」
 柔らかい風が、キッドのコートと私の前髪を揺らす。
「…ありがとう」
「……あァ」
 ふと、いつの間にかキッドに手を握られていた事に気付き、私は目を細めた。
「それとね…?」
 追伸。
「大好き」
「……あァ…」
 その気持ちはいつでも、言葉の中に温もりの中に。








 Fin.









→→→→→
 最初はミホークで考えていたのですが、拍手でキッドを書いた事が一度しかなかったので選びました。「P.S.アイラヴユー」と云う映画が大好きなせいで、「P.S.」の後に続くのはやはり「大好き」だろうと。落ち込んでいる時、キッドが何も云わずに傍に居てくれたら嬉しいだろうなあ。他の事には鈍感なくせに、そういうとこだけ鋭いとかね!
 長い間、ロ&キッドの拍手お礼文でしたが結構楽しんで下さったようで嬉しかったです。拍手、コメント共にどうもありがとうございました!

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