こちら革命軍参謀総長室−バルティゴ(サボ) (1/1)
「……暇だなあ」
 此処は、革命軍総本部・白土の島。
 世界政府より、危険な思想を持つとされる“革命家”ドラゴンの下、皆日々を慌ただしくも力強く過ごしており、とりわけ、幹部らは多忙を極めた。
「ひまひまひま」
 その活動は、軍支部や各国への遠征、会議に物資集めなど様々だったが、機密文書に目を通したり、申請に許可をしたり、書類を作成するのもまた、重要な任務であった。
「サボ、ワタシ、ヒマ」
「……おれ、ヒマ、チガウ」
 ペンを走らせたまま、この組織の参謀総長はロボのように応えた。
 執務机には書類が山ほど積まれていたが、その端に腰掛けている◆は、やっと貰えた返事ににっこりと微笑む。
「ヘイヘイ、そこの参謀総長〜! 私と鉄パイプ持って船でひとっ走りしな〜い?」
 ナンパ文句としては物騒な単語が入っていたが、この部屋にはそれにツッコミを入れる者は居ない――と云うのも、この執務室はサボのもので、今は◆と二人きりなのだ。
「……あのなァ、◆! おれだってそうしてェさ! だが、この報告書を今日中に完成させねェと、船でひとっ走りどころか沈没しちまう」
 唇を尖らせる彼は、竜爪拳の使い手ゆえ武闘派かと思いきや、実は文武兼備であり、今も結構なスピードで的確な文章を綴っていた。
 ◆はその革手袋をはめた手を横目に、ハイハイと頷いた。
「散々コアラの手を焼かせてるツケが回ってきたのね」
 普段は相棒に押し付けているのだろう。いよいよ我慢ならなくなった彼女は逃亡(単独任務)してしまったらしい。
「もしアイツの帰還までに終わらなかったら……その時は◆、おれの骨は拾ってくれよ」
「逃げないんだ?」
「……逃げたら後が怖ェ」
 ハァ、と書き上げた紙を寄越され、◆は机から降りてそれを受け取る。
 ちなみに先ほど“ヒマ”と連呼していた彼女は、仕事が無いわけではない。
 活動のため、国や重要人物の資料をまとめるのが◆の本日の任務であり、それにはサボが作る報告書が必要であり――ゆえに、彼女もまた、この執務室を出られないのであった。
「――ふむ。解りやすい文章ね、有り難い」
 受け取った書類に目を通しながら、◆は仕事の続きを、と席につく。
 それほど広くない参謀総長室。今日は緊急召集もかからず、穏やかな日だ。
 サボは新しい用紙を取り、再びペンを動かす。
「お前も酷だな。腕は立つのに、事務仕事ばっかさせられて」
「あら、ありがとう? 本当は私も、サボみたく暴れまわりたいんだけどね」
「人聞きの悪ィ。おれがやってるのは諜報、潜入その他諸々だぞ」
「ふふ、騒ぎを起こして記事になっちゃうくせに」
 コアラが苦労するわけだ、と笑いながら、それでも書類を捌くスピードは、歳近い上司に負けず劣らず。
「でもまァ、今日はなかなかいい日だ」
 顔は上げず、手は動かし、サボがポツリと呟いた。
「うん? 天気は良いけど……」
 ◆は彼の整った文字を追っていく。
「ハハ、そうじゃねェ」
 心地良く響くその――なんとも青年たる声は、楽しそうに弾んだ。
「おれはここに居なきゃならねェ。◆も同じ……だろ?」
「まさかのインドア派?」
 しかし、部屋の中に居るより、外で体を動かす方が彼は好きなはずだ。そう首を傾げると、聞こえよがしに大きな溜め息が吐かれた。
「二人で居られる口実になるからって云ってるんだ。意外と鈍いんだな、お前」
「……参謀総長がそんな事云うとは思わなくてね」
 ほんの一瞬、手を止めた◆は、癖のある金髪をチラリと見――再び、資料作りに集中する。
「たまには云わねェと。鈍い相手なら尚更な」
 得意げな声の後には、ガリガリ、サラサラと、紙上を走るペンの足音が響くだけ。
「――じゃ、今日中に提出出来たら、私がキスしてあげるってのはどう?」
「……は……!!?」
 素っ頓狂な声が上がったな、と思えば、
「あ!? ッうおい、間違えちまっただろ、書き直しだ!」
 グシャグシャ、と紙を丸める音と、くそォ! と云う悪態が聞こえた。
 こんなに取り乱す姿は初めて見るかもしれないと、目を見張った◆は再び顔を上げ、今度は金髪を凝視する。すると、離れた場所のくずかごに紙を投げ捨てたサボも、丸いくせに鋭い瞳で、◆を睨むように見つめ返した。
「……本気か?」
「お気に召さなかった?」
 質問に対し挑戦的な言葉が返ってきた事で、サボが吹き出す。
「……ッ、ハハ!! ンなわけ無ェだろ!? あーいいな、お前……よろしく頼むよ!」
 椅子に仰け反り、ひとしきり笑うと、収まりきらないのか肩を震わせながら、新しい用紙を手に取った。
 視線がペン先に逸れた事で、赤くなった顔を見られずに済んだとホッとし、◆も紙を捲る。
「では総長? お喋りはやめてお互い専念しますか」
 上ずらないように努めて冷静に云えば、「そうだな!」と、とんでもなく生き生きとした声が飛ぶ。
「約束だぞ、◆!」
「はいはい」
 くすくすと、そう返した後は、作業の音が響くばかり。
 ここは白土のバルティゴ。島の景観は渇いていても、情熱と生命力の漂う、革命軍総本部。
 その一室で、非常に場違いな会話を呑気に交わした二人は、同じ速度でペンを走らせ――そして、今後の展開に、同じリズムで胸を高鳴らせていた。



 END.




 コアラ帰還時――
(“ほっぺチュー”だなんて卑怯だぞ、◆!!)
(場所は指定してないでしょうが! 恥ずかしいなもう!)
(おれの純情と奮闘を返せーッ)
(あの二人……なんの話してるの? ハンク)
(分からん……)



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