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 その静けさの中、ドフラミンゴは再び真顔になっていた。が、暫くしてその口角をいつも通りの形に戻し、フフ! と笑った。
「――さて。おれは“大切にされるべき価値ある女”を探しに行くかねェ。急がねェと“奴ら”にやられちまう」
「“奴ら”――? てめェ何を……!?」
 聞き捨てならないその言葉にクロコダイルは目を見開き、ドフラミンゴを睨みつける。しかしドフラミンゴはタルの上からヒョイと降りたかと思うと、そのまま大の字になり、フワフワと宙へ浮かんだ。
「なァ、ワニ野郎、大切なモンを両手に抱えてちゃァ戦えねェ。だがその為に片方を捨てるなんざ男のする事じゃァ無ェ! 大切なモンを守りきってこその“海賊”だぜ!?」
 仰向けに浮かびながら演説するドフラミンゴから視線を外したクロコダイルは、自分より幾らか年下・若輩者からの教示に、青筋を立てながら嘲笑した。
「てめェがおれに海賊を語るのは100年早ェんだよ……! てめェこそ、欲しいものを全て手に入れようとして痛い目見るぜ、ドンキホーテ・クソフラミンゴ……!!」
「フフフ! おれはてめェと違って器用な方だからよ、心配要らねェ。不器用な砂漠の英雄サマはせいぜい悩み苦しむといいぜ、フフッ……フフフフフ!!!」
 そう笑いながら、ドフラミンゴは路地裏の闇にその姿を消した。
「…………」
 クロコダイルは葉巻をプッと地面に吐き捨て、踏んで火を消した。
 やらなければならない事がある――だが、なかなかそこから動けず、そのまま立ち尽くしていた。通りは再び賑わいを取り戻している。
「……指令状は……あァ……」
「――!」
 そんなクロコダイルの耳に、聞き覚えのある単語が聞こえてきた。
 その言葉に反応したのではない事を装い、なるべくゆっくりと、しかし俊敏に振り向く。
 声の主はすぐに分かった。腕にバロックワークスの社章のタトゥーを入れている者と、“BAROQUE WORKS”とプリントされたTシャツを着ている者――共に人相は悪い――が、忙しなく会話しながら歩いている。紛れもなく社員だ。
「船をあそこに泊めたままってのもなァ……やっぱり堂々と港に泊めちまっても構わねェんじゃねェか?」
「馬鹿云え、さっきの海賊に目ェ付けられてるんだ。様子見ねェと……」
 二人の会話からして、彼らは先刻ナノハナでドフラミンゴの部下に襲われかけた社員達らしい。と云う事は、彼らのチームにナセも居る筈である。
「……」
 クロコダイルは路地裏へ一度身を隠し、姿を砂に変えて上空から二人の後をつける事にした。
 彼らはサンドラ河流域へ向かって行き、河のすぐ傍まで来ると岩場へその姿を消した。
 バロックワークス船は河沿いの岩場に隠してあり、そこでは社員達が物資を船から運び出していた。
「ボスに到着報告をし終えたら、その荷をアジトへ運ぶからな」
 運び出された荷物は船から少し離れた場所に積まれており、これから再び運ぶ為か何台もの荷車が止まっている。と、物陰から様子を窺うクロコダイルの目にその姿が映り込む――ナセだ。
「……っ!」
 ナセは運ばれてきた荷物を荷車に積む作業についていた。
 その作業は数人で行っていたが、船から運び出すペースが遅いのかすぐに積み終えてしまう。
「船から持ってくる」
 と、ナセ以外の社員達は船の方へ、加勢しに行ってしまった。
「……ふう」
 それを見送ったナセは小さく溜め息を吐き、荷車に腰を掛ける。
「……」
 クロコダイルは“今がチャンスだ”と体を起こした。
 ――消さなければ。

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