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「――こんな所に連れて来ちまって、本当に良かったのか……?」
 風になびくナセの髪をふわりと撫でながら、クロコダイルは自問自答のように呟いた。
「だがまァ……仕方ねェ」
 アラバスタでナセと行動を共にする時間が長くなるほど、それが当たり前に思えて、それが心地良く思えていた事に、ついこの間気付いたのだ。
 フゥと煙を吐き出し、クロコダイルはまた一撫でしてから、もう一つのベッドに向かう。
 さすがのクロコダイルも、長旅のすぐ後に会議なんて云うスケジュールには疲れていて、バサッとコートを脱ぐとそのままベッドに倒れ込んだ。眉間に皺を寄せたまま目を閉じれば、ものの数秒で眠りへと落ちて行った。
 翌日、部屋にある電伝虫で報告を受け、クロコダイルは支度もそこそこに、会議へと部屋を出て行った。
 一人部屋に残されたナセは、どうしようかと考える。
 今日も寝ていると云う訳にはいかない。ならば、この機会に政府の城を探索してみようと思い立ち、コッソリと部屋を出た。クロコダイルには、勝手に部屋を出ないように云われているが、そんなのはつまらないし勿体無い気がする。
(サーが戻って来る頃に戻ればいいよね)
 しかし部屋を出たまではいいものの、昨日は玄関とこの部屋しか来ていないので、他の七武海やクロコダイルが何処に居るのかも知らない。
「七武海の人に会ってみたいなあ。あ、でも今は会議中か」
 廊下をアテもなくふらふらと歩き回っていると、ふと彫刻が見事なドアが目に付いた。
「うわあ、素敵――誰か居るかな」
 あわよくば遊び相手になって貰おうと思えるナセは、ある意味大物かもしれない。
「……誰だ」
 ノックをしてみれば、静かだがよく響く低い声が返って来る。人が居た事に嬉しくなって、ナセは勝手にドアノブを捻った。
「……?」
 その男は、部屋の奥にある窓際のテーブルで足を組み、本を開いていた。テーブルの上には、黒い帽子が置かれ、その帽子についた飾りがフワフワと揺れている。
「入れと云った覚えは無い」
 その本に目を落としたまま、厳かに男は云う。
「あ、ごめんなさい。ただ、話し相手でも居ないかなって……」
 謝りつつも、ナセは部屋を横切り、その男の居るテーブルに近付いた。
「サーが居ないからつまらなくって、色々見て回ってるの」
「……」
 男はナセの言葉にやっと顔を上げる。上から下までナセを見れば、漆黒の瞳と目が合う。
「サーとは……サー・クロコダイルの事か」
「ええ、そう!」

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