08
目が覚めればもうそこにキバはいなかった。ソファーでなくベッドで眠っているところをみると、彼が私をこっちに運んでくれたのだろう。
「……ッ」
上半身を起こせば首筋に痛みが走る。
あぁ、そうだ。また噛まれたんだ。
シーツを巻いたまま洗面所へ向かえばやっぱりくっきりはっきり首筋に規則正しく並んだ二つの赤。それは身体中に咲かされた花とと別に赤黒く存在感を主張していた。
「犬にも程がある」
彼はそのうち私を食べてしまうのではないだろうか。初めて噛まれた時、恐ろしさに声もなく呆然と泣き続けた。そんな私に彼は慌てながら平謝りしていたのを、今でも覚えている。それでも、彼はたまに私に噛み付く。
本能なのか、欲望なのか、そんなこと知りはしないけど、噛み付かれる快感に溺れそうで怖い私も頭がおかしいのかもしれない。
[ 34/141 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]