019
リビングでココアを飲みながらも睨むことを忘れない私。もちろん隣にトランクスくんを侍らせるのも。
「こら、First name。いつまで拗ねてるの?」
「拗ねてない。断じて拗ねているわけじゃないのだよ、ブルマさん」
何だその困ったなと苦笑している優男は。こんなんトランクスくんじゃないもんね。トランクスくんはもっと可愛くて可愛くて可愛くてかっこ良いもんね。
「First name、もう大丈夫なのか?」
「え?」
心配そうに見上げているトランクスくんに首を傾げる。先ほどのことを言っているのか、それともしっかり記憶に残っている昨夜の醜態のことを言っているのか。どっちみちダメだなんて言えないから「うん、大丈夫」って笑うしかないのだけれど。
「トランクス、暇なら付き合え」
「はい、父さん」
一汗かいてきたらしいベジータさんは、まだトレーニングしたりないらしくトランクスの方を誘った。トランクスも花が咲いたように意気揚々と立ち上がった。その姿がちょっとトランクスくんに似ていたなんてきっと気の所為だ。
「僕も!」
「お前はそいつといてやれ」
「え、あ、うん」
ベジータの言葉に頷きながらも出て行く二人の背をトランクスは見つめていた。
「トランクスくん、ごめんね」
「……」
トランクスくんは扉を見つめたまま、うんともすんとも言わない。私の声も届かないらしい。切なそうな瞳に胸がツキンと音を立てた。
「行きたいなら、行って良いよ?」
そんなことを口走っていた。心は裏腹に行かないでと叫んでいるのに。
「え?」
「行きたいんでしょ?」
ベジータさんと一緒に修行したいんでしょ?とそっけなく言う私にトランクスくんは小さく、でも確かに頷いた。
あぁ、私はトランクスくんを縛ってるんだ。
そう思ったら彼を私から開放しなきゃって無性に焦った。
「行って良いって」
「でも、パパはFirst nameといろって」
パパ?トランクスくんはベジータさんがいろって言ったから私の傍にいるの?
年下の彼に対して私は大人気ないぐらい拗ねて、嫉妬した。
「何それ、意味わかん無い。いいから行きなよ」
「え、でも」
「でもじゃないし。行けばいいじゃん」
「な、そんな言い方ないだろ。俺、First nameのこと心配だから」
「あはは、馬鹿じゃない?子ども心配されるほど子どもじゃないし」
「……ッ!何だよ、さっきから」
「さて、帰ろ」
「え」
「駄々捏ねるお子ちゃまに付き合ってる暇ないから」
「何だよ!お子ちゃまって!俺は!」
「うるさいなー」
「……ッ、もう良いよ!First nameなんかさっさと帰れよ!」
「言われなくても帰るし」
「もう、もう遊んでなんかやらないからな!」
「は?私が構ってあげてたんだけど?」
「うるさい!First nameなんかFirst nameなんか、First nameなんか!大っ嫌いだ!」
トランクスくんは私があげたブレスレットを外し、私に向かって投げ付けた。それは私の胸に当たり落ちた。
「トランクス!」
口を挟まず窺っていたブルマが咎めるように彼の名を呼ぶが、もう遅い。
嫌い。
その言葉は重く私にのしかかり、心臓を鷲掴んで離そうとしなかった。ぎゅうぎゅうと締め付ける痛みに息を吐けば、同時に頬に生温かい何かが伝った。
あぁ、ごめんなさい。許して。嫌いなんて言わないで。ごめんなさい、ごめんなさい、あなたを傷付けた。そんな私を私は許せない。でも、気付いて。知って。今、私の心はナイフで何度も何度も切り裂かれたみたいにぼろぼろだよ。
ごめんなさい、許して。
私は、君を愛してるんだ。
[ 20/141 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]