06
特別、忍になりたいという気持ちはなかった。ただ、父が忍であるということと、大好きな彼が真っ直ぐに忍を目指していたから。
そんな、ふわふわした気持ちで入ったアカデミーは甘くはなかった。
「Family nameさん、またあなたの所為で私たちの班はぼろ負け。分かってる?」
「ごめん」
リーダー層の気の強い女子が腰に手を当ててそう言った。彼女が言ったことは事実だった。
私は残念なことに、父の忍の才を受け継いではいなかった。
彼とお揃いのつもりで被っていたパーカーのフードも、いつしか自分を隠すための防御壁となっていた。
「ちょっとー、あんたたち次の授業遅れるわよー」
教室の扉の方から声が掛かり、私を睨み付けていた彼女は鼻を鳴らし一層冷たく私を見下ろした後、教室を出て行った。
「あの、First nameちゃん、大丈夫?」
弱々しい声で私に声を掛けてきたのは日向ひなた。その声色は震えていて日向さんの方こそ大丈夫かと思うぐらいだった。
「別に」
私は彼女が苦手だった。決して目立つこともなく、さして成績も飛び抜けて良いわけではないこの子は、私にはないものを持っていたから。
この子だけじゃない、ここには私には到底手に入れられないようなものを持っている子達が多い。
いつしか思うようになっていた。
ここは、私の居場所じゃない。
「First name!」
「わん!」
それでも、彼がいるから、彼の前ではそんなこと言えないから、ずるずるずるずる、ずるずるずるずる、こんなところまで来てしまったのだ。
もう、引き返す道さえ分からぬままに。
[ 32/141 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]