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進化の時とそれは同じ光だった。ただ、グラエナはそれ以上の進化などない。少女はそれを知らぬのか期待いっぱいの目でアンリを見ていた。一方、グラエナは焦っていた。いったい自分の身に何が起ころうとしているのか検討もつかず。
「あんり?」
「……First name」
グラエナは自分の手を見下ろし、唖然としていた。そして少女に名を呼ばれ、ハッとしたように顔を挙げる。そして縋るように主の名を呼んだ。
「あんりは進化すると人間になるの?」
そんな馬鹿なことがあるわけない。しかし、現にグラエナだったアンリは人間の姿になっていた。見下ろした両の手は人間のそれだったのだから。
「あ、あっ、あっ」
「あんり?」
「く、くるな!来るな!」
「あんり、どうしたの?」
「う、うぁああああああ!」
頭を抱え叫ぶアンリに少女は慌てて駆け寄り抱き締めた。いつもと変わらずに、戸惑いなど一欠片もなく。
「や、やめろ!触るな!離せ!」
「どうして?」
「だって、だって、ポケモンが、ポケモンが人間になったんだ。……気持ち悪いだろう?」
怯えた目でそういう彼の言葉がよく分からなかった。何が気持ち悪いのだろう。それだったらポケモンと話せる私だって気持ち悪いじゃないか。
「あんりは私を気持ち悪いと思ってたの?」
「んな!そんなわけない!お前のどこが気持ち悪いと言うんだ!」
「ふふ、ありがとう。だったら、あんりだって気持ち悪くないわ」
「……」
「そもそもこの楽園は私とあんりの二人きり。常識や普通なんて知らない。いらない。私はあんりがいれば他に何もいらない。あんりがいれば、それでいい」
「あぁ、First name、First name、First name、First name」
愛おしき我が主。その体をやっとこの胸にしまうことができる。
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