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物心ついた時には塀に囲まれた暗い部屋にポチエナと二人きりだった。太陽の光が入る隙間もなく、蝋の頼りなさ気に揺らめく炎だけがその空間に灯りを教えてくれる。
たまに光がさしたと思えばそれは太陽という温かな陽射しではなく人工的に作られた偽りの灯り。そして必ずそこには若草色の髪を持つ独眼の男がFirst nameを冷たい目で見下ろしていた。
「First name、寒くないか?」
「ん、だいじょうぶ」
ポチエナはこれでもかと言うぐらい寄り添っってくる。震えてなどいないのに、私が凍え死にそうにその瞳には映っているんだと彼はいつだったか言った。
若草の男が来ると必ず彼は威嚇し唸りを上げて私を護ろうとしてくれた。その背中が微かに震えていたことを私は知っていたけど、その背中しか縋るところはなくて、ごめんねごめんねと心の中で叫びながら彼の背中に隠れていた。
それでも人間に敵うはずはなく……。
「いやぁ!いやぁ!離して!離してぇ!あんり!あんり!」
「First name!First name!First nameを返せ!First nameを……ッ」
「あんり!?いやっ!あんり!」
私を彼と引き離す手は私の大切な彼までをも傷付ける。見たことのないポケモンに彼が攻撃を受けた。冷たい石壁に叩きつけられ、びくとも動かなくなった彼にサーッと何かが引いていった気がした。
何も考えられなくて恐怖だけが支配した。そんな私は何をされても痛くも痒くもなかった。それでも身体に痛みは感じているようで、喉から勝手に叫び声が溢れ、目からは泪が零れていた。痛くも痒くもないのに。
「あんり、あんり!」
「First name!First name!」
いつもの部屋に戻された時、変わらずそこに彼はいた。部屋の隅で丸まっていた彼が駆け寄ってくる。抱き締めた彼の体はやっぱり震えていた。
「First name、すまない」
「あんり、あんり、あんり、あいしてるよ」
「あぁ、私もだ」
暗くて冷たいそこは、光がある外なんかより、私と彼にとっては楽園だった。
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