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06

そんなの愛じゃないなんて否定するのなら、いったい愛とはなんなのか。今、この関係を言葉にするならば愛が一番だというのに。

所詮、凡人には、狂人、変人、天才の考えなどは分かりはしないのだ。たとえ、それが異常だと、狂愛だと、言われたとしても、俺はもうこいつを手離すことなんてできない。檻に閉じ込めて飼い殺しにする快感を。


「なぁ、檜佐木さん」

「あ?どうした、阿散井。珍しく頭使ってるような顔して」

「あっははは!修兵ひっどーい!」


全く酷いとは思っていないだろうに笑い飛ばしたのは既に一升瓶を空にさせた松本乱菊だ。今日もいつものメンバー、松本乱菊、檜佐木修兵、吉良イヅル、斑目一角、綾瀬川弓親、更木剣八、やちると呑んでいた。既に更木は寝てしまったやちるを連れて帰宅。イヅルは早々と潰され、残るは酔っ払いの松本乱菊と、ほろよいの檜佐木、まだまだシラフな斑目と、お肌に良くないからと適量に呑んでいる綾瀬川だ。


「技局の女の子って知ってますか?」

「女の子?」

「あらぁ?それってもしかしてFamily nameFirst nameのこと?」

「乱菊さん、知ってんすか!?」


首を傾げた檜佐木に垂れ掛かるように松本が割り込んできた。阿散井は食い気味に聞き返す。


「知ってるわよー。あたしに知らないことなんてなーいんだからー」


酔っ払いだが松本はあの少女のことを確かに知っていると阿散井は思った。何故なら、確かにあの時阿近は少女のことを「First name」と呼んだのだから。


「First nameがどーしたのよー?」

「いや、昨日技局に行ったら会って。あんな女の子もいるだな、と……」


阿散井は濁した。本当はあの少女が何者で阿近との関係を知りたかった。阿散井は一日経つにもかかわらず、あの手首を伝う真っ赤な血液を舌先で舐め上げる歪で違和感の塊である妖艶な姿が脳裏に焼き付いてしかたなかった。その鮮明な映像を振り払うようにぐい呑を飲み干して、頭を振った。


「あの子、んー、あの人は私が入隊した時から既にあの姿だったから、きっと阿散井が思ってるより、ずーっと歳上で先輩よ」

「え、まじっすか?」


阿散井は瞠目した。


「だって一護んとこの妹たちと変わらないような……」

「容姿になんか惑わされちゃ駄目よ。まだまだねぇ、あんたも」


わざとらしく溜息を吐いたあと、乱菊は遠くを見るように視線を落とした。


「あの子は、異常よ」


ぽつりと零した声は微かに震えていた。それは可哀想とか同情とかとは違って、まるで心底怯えているかのように。


「乱菊さん?」

「はい!この話は終わり!さぁ!呑もう呑もう!」


乱菊が阿散井の口に一升瓶を突き刺したことで話は強制終了された。しかし、一部始終を声も出さず聞いていた檜佐木らは眉を顰めていたのだ。


「Family nameFirst nameか、久々に聞いたな」

「……俺はよく阿近さんから聞きますけど」

「あぁ、お前たまに鬼と酒呑んでんだもんな」


一角が何気なく言った言葉に檜佐木は気まずそうに答える。


「彼女は相変わらずらしいですよ」


苦笑いする檜佐木に綾瀬川は嫌そうな顔をした。


「あれの何処が良いのか僕にはわからない。僕の美的思考とは合わない。全く」


それは好き嫌いというよりも気味が悪いというような感覚に近かった。


「自傷行為が快楽とか、異常過ぎ……」

「弓親!それ以上は駄目よ。だって、あなたは彼女のこと何もしらないでしょう?」

「そういう乱菊さんは知ってるんですか?」


技局の鬼に愛された不老の少女のことを。

乱菊は目を瞑った。瞼の裏に映し出されるそれは目を背けたいほどの赤、赤、赤。

あんなにも可哀想な子、私は他に知らないわ。

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