05
白黒の記憶。
「阿近くん、阿近くん」
それはまだ阿近に角が無かった頃の話だ。少女は変わらず少女のままだった。ただ、酷く醜い顔と体をしていただけで。
「誰だ、お前」
「阿近くん、阿近くん」
「おい、だから」
名前を呼ぶにもいっこうに話が進まない。
「こぉら、阿近さん幼気な少女に舌打ちなんてしちゃダメですよー」
「隊長」
「この子は、First nameちゃん。可愛いでしょー?」
よしよしと撫でる手を少女は嫌そうに払って、あろうことか自分の白衣の袖を掴んできた。
「あらら、First nameちゃんは阿近さんが気に入ったみたいですねー」
正直、この少女の何処が可愛いのかわからなかった。顔は青痣だらけで腫れ上がり、原型がわからない。よくよく見ると見えている手も傷跡だらけだった。きっと首に巻かれている包帯を外せばその下にはもっと酷いものがあるのだろう。
「阿近くん阿近くん」
「……お前、名前は?」
少女は花が咲いたように笑った。その醜いのを歪めて。
「First name!First nameね、First nameね、阿近くん、好き!」
確かに、ちょっと可愛いと思った阿近だった。そして、その日から甲斐甲斐しくも阿近はFirst nameの手当をし、着々と傷を消し、着々とFirst nameを自分のモノにするのだった。
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