03
門が開いたのは良いものの誰も出迎えがない。仮にも副隊長だ、さすがの阿散井も苛立ち始めた頃、小さな霊圧が近付いて来ていることに気付いた。そして扉が開く。
「こんにちはー、お待たせしましたー、えーっと?」
扉から現れたのは少女だった。阿散井は一瞬虚を衝かれたように惚ける。自分の友人である少女よりも背は高いがあどけなさが消えていない。しかし、死覇装に技局員特有の白い白衣。ここの人間であることに間違いはないようだ。
「あ、あぁ、六番隊、阿散井だ。頼まれていた書類だ。うちの隊長が時間が掛かりすまなかったと……」
「ふーん」
差し出した書類を受け取った少女は興味無さげにペラペラと捲り始めた。そして阿散井は気付く。少女の真っ赤な手に。あろうことか、少女のやってきた扉の向こうからその赤い斑点は続いている。
「お前、その手。怪我してるじゃねぇか」
「触らないで!」
何気なく伸ばした阿散井の手を少女は過剰なほどに反応し振り払った。持っていた書類は当たり前ながら散らばる。床一面の赤と白。
「こら、大事な書類をばら撒くな」
「あ、阿近くんだ!ねぇ、見て!今日はあたしの血赤いの!」
見て見てと無邪気に血の流れる手首を見せつける少女の姿は愛らしい。その光景に阿散井は違和感のない違和感を覚えた。
「莫迦か、お前の血はずっと赤だろうが」
「えー、違うよー、昨日は緑だったもん」
「それはお前が緑色のレンズのサングラスを掛けてたからだろ。それより止血しろ。またぶっ倒れて、四番隊に運ばれるぞ」
「それは嫌!他人の血があたしの体に流れるとか気持ち悪い!おぞましい!」
「だったら止血しろ」
「むぅ」
「阿散井、あー副隊長?悪かったな、わざわざご足労頂き。書類は受け取ったよ」
「え、あ、あぁ、はい」
阿散井は我に返った。
どうにか止血しようと真っ赤な手で真っ赤な手首を抑える少女。だが、思った以上に傷は深いようでなかなか止まる気配はない。
「にゃははは」
「笑うな、キモイ」
「ひどい!」
「酷くない、自分で手首切って自分の血見て恍惚と興奮してるお前が悪い」
「酷い!阿近くん昨日は可愛いって言ってくれたのに!いっぱいチュ、がふっ」
少女の訴えは少女の顔全部を覆ってしまうことさえできるような阿近の手のひらで押さえ込まれた。
「阿散井、まだ何か?」
「い!いえ!何も!じゃっ、失礼しまーす」
俺は何も見てない何も聞いてない何も知らない!
予想を遥かに上回る狂人の登場に阿散井は背筋を凍らせた。
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