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04

チラチラと気にしていたのが伝わったのか、おじさんがそろそろ良いだろうなんて言ってわたしの手をとった。ママともパパとも違うゴツゴツな手にちょっぴり驚いた。


「ほら、おばぁちゃんだぞ」


背を押されて躓きそうになりながら入った部屋には橙色の陽射しが視界を明るく照らしていた。教会のステンドグラスのような美しさの中で儚く笑う皺皺な老婆が不思議と綺麗に見えた。

ベッドに縋り付くように顔を埋めているママの肩は小刻みに震えていた。その背中を護るようにルカリオが、ただ佇んでいる。

そして、ベッドの傍にはこの世のものとは思えぬ美しい青年が老婆に寄り添っていた。


「もっと近付いて」


おじさんの言葉にわたしは小さく首を横に振った。あまりにも美しく出来上がったその空間が恐ろしく感じたんだ。ピカチュウのぬいぐるみを抱き締めながら頑なに動こうとしなかったら、ふいに老婆と視線をが重なった。


「あ」


老婆は穏やかに柔らかく微笑むと、そっと何かを口ずさんだ。そして、老婆は美しい青年を見上げた。青年は一瞬顔を歪めたあと目を瞑り、再び開けたときには慈愛に満ち溢れた眼差しを老婆に向けたのだった。


「First name」


愛おしむように青年が老婆の名を読んだあと、彼女は世界にサヨナラをした。

その手は、いつかの約束のように彼と繋がったまま。彼に寄り添われながら、彼に看取られたのだった。

微笑みながら生を終えた彼女を見て、ママは「まるで眠っているようね」って言って、彼は「あぁ」とつぶやき、たった一筋の涙を流した。

その瞬間、わたしは見た。老婆が笑ったところを。


そうね、あとは一滴の涙を流してくれたら上出来ね。


そう言って笑ったいつかの日の彼女は永遠に目覚めぬ世界へ旅立ち、それを追うように傍の青年も風になって消えたのだった。

結局、最期に彼女が何を紡いだのか私にはわからなかった。死という目に見えない恐怖に竦んで動けずにいたことを後悔した私は今、老婆、いな、祖母のお墓に来ていた。

人間を愛したアルセウスが好んだという花束を携えて。






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