01
「えぇ、えぇ、そう。……ッ、うん、ごめん、大丈夫。すぐ向かうから」
あの日、私は階段に座り込みそっと聞き耳を立てていた。洗濯物が気持ち良さそうに靡く昼下がり、突如それを引き裂いた電話は祖母の危篤を知らせるものだった。
「ママ?」
電話が終わっても尚、受話器を掴んだまま動こうとしないママにわたしは控えめに声を掛けた。ピカチュウのぬいぐるみをギュッと抱き締めて。
見えない何かが怖くて怖くて怖くて仕方がなかったんだ。
「ミオシティのおじさんのお家に行くわよ」
「え?今から?」
「……えぇ、だからお泊まりの準備、できる?」
目線を合わせるようにしゃがんだママがわたしの両肩に乗せた手は小刻みに震えていた。わたしは大袈裟なほど何度も頷いて、自分の部屋へと飛び込んだ。
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