ぶりっ子の悲劇・4
「こんなの、こんなのおかしい……!」
おかしい、おかしいと叫び続けるぶりっ子。だが、これが現実だ。美形博物館の閉館危機だ。しかし、これでようやくぶりっ子が俺に突っ掛かってきた理由がわかった。
急に姿を見せなくなった取り巻きたちに、俺が裏から手を回して遠ざけたのではと疑ったのだろう。むしろ、ぶりっ子的にはそっちの方がよかったはずだ。俺をなんとかすれば、取り巻きたちは戻ってくるわけだしな。
カミングアウトの嵐によって騒然となった場を納めたのは、会長と風紀委員長――愛依先輩と由愛先輩だった。俺を追いかけ回す姿からは想像できないくらい、威厳に満ちた態度で野次馬を散らしていく。
「大丈夫だったか、幸喜?」
「遅くなって悪かったな」
「別に。待ってませんでしたから」
自分でも可愛くない台詞だなぁ、と思うけど、二人は特に気にした様子はない。
愛依先輩と由愛先輩に気付いたぶりっ子は、嫉妬に満ちた眼差しを俺へと向けてくる。というか、美形博物館が閉館の危機に陥ったのは俺のせいじゃないと思うんだが。
まあ、でもここでぶりっ子に仕返ししてやるのも一興か。
「……友達がそれぞれに付き合いはじめたんだ、祝福してやれよ。お前だって、“みんなは友達だ”って声高に言ってただろ」
ぶりっ子は取り巻きたちから告白されても、ちゃんとした返答はせずにいつも曖昧に誤魔化していた。断わったら、自分から離れて行ってしまう可能性があるからな。
美形どもを侍らせておきたいぶりっ子としては、適度に気がある振りをして繋ぎとめておきたかったのだろう。それが、こんな結末を生むとも知らずに。
「そ、それは……」
言葉に詰まったぶりっ子に、追い打ちをかけるように由愛先輩が口を開いた。
「いいことを教えてやろう。貴様の残りの取り巻きたちも、新しい恋を見つけたようだぞ」
「えっ……」
残りの取り巻きって誰だっけ?と首を傾げていると、愛依先輩が教えてくれた。
「理事長と生徒会顧問だ。きっかけはわからんが、昨日の放課後に書類を届けに理事長室に行ったらソファーで乳繰り合ってた」
「俺は、理事長から夏休みにハワイで二人だけで挙式すると聞いたな。書類を提出しに行っただけなのに、さんざん惚気話を聞かされるはめになった」
ハワイで挙式か……と、それぞれのカップルたちが互いの顔を見合って頬を染めている。愛依先輩と由愛先輩も俺の方を見て、「ウエディングドレス……」「白無垢……」と呟いていた。死んでも着るもんか。
「お、叔父さんが先生と!?そんなの聞いてないっ!」
「互いに夢中で言い忘れたんだろう」
由愛先輩の声が無情に響いた。がっくりとその場に膝をついたぶりっ子だったが、やはりぶりっ子は打ちのめされてもぶりっ子らしい。涙を瞳に湛え、愛依先輩と由愛先輩を弱々しげに見上げる。
「そんな……みんなが離れて行っちゃったら、親衛隊に捕まって制裁されちゃう……」
今度は弱々しさをアピールする作戦らしい。だが、再び由愛先輩の言葉が響く。
「問題はないだろう。たまに顔を合わせる程度の相手をわざわざ制裁するほど、親衛隊も暇ではない」
「せいぜい、廊下ですれ違った時に嫌味を言われる程度だな」
最後に、愛依先輩がとどめを刺す形となった。
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