俺と異世界・アレン


 突然だが、異世界に転生した。太陽が二つあったので、『あ、ここ地球じゃねぇし』と悟ったのだ。

 俺が産まれたのは、とある裕福そうな貴族の屋敷だった。中世ヨーロッパ風の室内には、豪奢(俺的に)な調度品が並べられ、侍女とおぼしき女性たちが忙しなく出入りを繰り返していた。

 むろん、それに気付いたのは、俺が異世界に生誕してから三ヶ月ほど経った頃のことだ。真っ白い世界と真っ黒い世界、それからよくわからない言語が俺の世界のすべてだった。

 はじめはパニックになったさ。だが、いくら泣き叫んでも現状が変わることはなかった。

 ただ、泣くと暖かくて柔らかいものが顔に押しつけられ、なぜかとっても安心するので、不安になる度に泣き喚いてみた。いつの間にか腹も満たされるしな。まあ、それは母上の爆乳だったわけだが……。

 眼が機能し始めると、俺の世界はぐっと広がった。侍女たちに傅かれる金髪美女(ここ重要)が俺の母親だと知ったし、たまーにやってくる黒髪美形(あんまり重要じゃない)が父親だということも知った。

 そんで、兄が二人もいた。びっくりだね。両親の外見から長子だと思っていたのに、お昼寝から目覚めてみれば、八歳くらいの美少年と五歳くらいの美幼児が俺を興味津々に覗き込んでいたのだから。俺的には兄よりも美しいお姉様がよかったんだが……。

 まあ、そんな感じで俺の異世界ライフは始まった、が。

 俺が一歳になった時、衝撃の事実が発覚した。異世界ということで、俺の期待通り“魔術”が存在した。

 特にうちの家系は魔術に秀でた者を多く輩出し、二人の兄もかなりの高魔素保持者として将来を期待されているらしい。

 なので、一歳になった時に行われる魔素測定を、両親や使用人たちはとっても楽しみにしていた。むろん俺も楽しみにしていた。

 だが、屋敷に招かれた測定師が、こっちが気の毒になるくらい真っ青な顔で告げた結果は、「魔素は……10レル(魔素を表す数値)です」だった。

 ちなみに、父は550レル。母は280レル。上の兄は一歳児測定の時、610レルと当家最大のレル値を叩きだし、下の兄はそれより劣るものの480レルというなかなかの値だった。

 さらに補足すると、貴族の平均は200レル〜300レル。平民は100レル前後。平民で200レルを越えると、魔術系の学園に無料で通えるそうな。

 父上絶叫。母上茫然。兄二人は魔術学園幼等部に通っていたため不在。使用人らには失神者が続出。測定師も失神しそうだった。

 とりあえず、俺は『死亡フラグやべぇ』と思いつつも、赤ん坊だからよくわかんなーい的な感じであぶあぶ言っていた。実際、あぶあぶしか言えないしな。

 貴族で魔素がほぼなしっていうのは、かなりの死亡フラグだ。周囲から白い目で見られるだろうし、なにより屋敷でも冷遇されるかもしれない。

 一族の恥と蔑まれ、薄暗い部屋に閉じ込められるならまだいい。最悪、遠方の山にポイか、産まれてきたこと自体を抹消される恐れが。さらに最悪なのは、俺が赤子だということだ。

 ある程度育っていれば、殺される前に逃げられる。でも、今の俺は三日前にようやく直立(しかも支えあり)できるようになったばかりだ。

 さよなら異世界。できれば、次の生は地球がいい。と、俺は遠い目をした。あと、俺が殺されるなら、測定師さんも口封じで殺される確率が高いので、巻き込んですまんかったな、という同情の眼差しを向けておいた。気絶するより先に逃げた方がいいぞ。

 しかし、現状は違った。

 うちの家族は、魔素がほぼ皆無→弱っちい→俺(私・僕)が守ってやらねば!という結論に至ったらしい。


父「お前が成人したら、屋敷は上の息子たちに任せて田舎に引っ越そうな。田舎はいいぞ。空気はきれいで、陰険貴族もいないからな〜」

長兄「騎士団長になって、兄ちゃんがお前を守ってやるからな!」

次兄「僕は宰相を目指します。兄が権力者ならば馬鹿にする輩もいないでしょう」

弟(二年後に産まれた)「にーたま、いっちょ!(言ってることはだいたい長兄と同じ)」


 母上は、「ほどほどにね」とみんなを諫めていた。それでも、俺の魔素値があまりにも低くて、一番心を痛めていたのは母だと知っている。夜、枕元であんだけすすり泣かれたらな……。

 とりあえず、当面の目標は両親や兄弟たちに頼らず自活する道を捜すことだ。魔素値が低くても、俺が幸せに暮らせるなら母上の罪悪感も薄れるだろうしな。あと、父&兄弟たちの愛が重すぎてうざい。かなりうざい。うざいと叫びたい。


 ちなみに魔素値は最小だが、容姿は自分でもびびるくらいの可愛らしさだった。将来はかなりの超絶美形になるに違いない。




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