まさかの第三者登場


※流血表現があります。苦手な方はお気をつけください。




 ぎょっとしたように、葛城が叫んだ。

「あんた、怪我してっ!?」

 黒で統一していたから、たぶん気付かれなかったのだろう。血の匂いだって、ここには嫌というほど充満してるし。

 俺の上着は、実は血でぐっしょりと濡れていたりする。俺に抱きついた白崎だからこそ、気付けたのだ。

「……廃屋に隠れてた奴らを黙らせる時、ちょっとな」

 よりによって、ナイフなんて隠し持ってやがったんだよ。

 そんで、少しばかり怪我を負ってしまったわけだ。刺されたわけじゃないから気にしていなかったんだが、傷は意外と深かったらしい。顔を上げれば、焦った様子でこちらへ駆けてくる西園寺の姿が見えた。

 俺如きに、なんでそんなに焦るかねぇ。

「――そこまでだ」

 突然、第三者の声音が周囲に響いた。

 聞き覚えのある声に顔を向ければ、苦笑しながらこちらへと歩いてくる所長の姿が見えた。

 幻かなぁ、と思ったら俺の腕に触れる感触は妙にリアルで。あ、本物だ、と心の中で呟いた。

「ど、して、ここに?」

「俺の情報網なめんなよ。お前の居場所くらい、調べればすぐわかる」

 まあ、派手な外見してますもんね。ぼんやりしていると、所長にひょいと体を抱え上げられてしまった。この歳で横抱きは、さすがにどうかと思うんだが。

「こいつは返してもらうぜ、龍」

 龍、と所長は西園寺の名前を呼んだ。

 え、まさかの知り合い?俺が阿修羅のアジトに行くって言った時、なにも言わなかったくせに。西園寺へと視線を向ければ、なぜが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているのが見えた。

「……お久し振りです、総司さん」

「おう。そっちは、あいかわらずそうだな」

 名前で呼び合うところから推測するに、けっこう親しい仲のようだ。なによりも驚きなのは、あの西園寺が敬語を使っていることだ。

「そいつとは、どんな関係なんですか」

「ああん?さしずめ、飼い主とペット……って、引っ掻くな!」

 間違った認識をされては困るので、俺は渾身の力を振り絞って所長の腕に爪を立てた。誰があんたのペットだよ!

「ったく、うちの猫は気位が高くて困る」

「誰が、あんたの、猫、だ」

 痛みに耐えながらも、俺は必死で抗議した。

「んな色っぽい眼で見るんじゃねぇよ。いじめたくなるだろ?」

 俺の雇い主は、変態だったようだ。今度、同僚の人たちに教えてやろう。いや、その変態と何年も付き合ってる人らだから、すでに知っているかもしれない。

 冷めた眼で見つめてやると、さすがに苦笑された。

「こいつは俺の秘蔵っ子だ。龍、手ぇ出すなよ?」

 あと、そっちの奴もな、と所長は葛城に視線を向けた。だが、葛城の視線は所長にはなく、未だ食い入るように俺へと向けられていた。

 なんというか、本当にまずったかもしれない。俺は麻紀の書く小説の主人公のように鈍感でもなければ、他人の感情の機微に疎くもない。

 それがどのような感情なのかは、本人ではないので不明だが――関心を引いてしまったのは、間違いないようだ。そして、たぶんそれは西園寺にも言える。

 あの唯我独尊男が、簡単な気持ちで自分の隣に立てなんて言うはずがない。現に、渋い顔をしているだけで、返事はないし。まったく、俺にとってみれば所長が西園寺の知り合いってだけでも厄介なのに。

「じゃあな。あんまり、うちの仔猫ちゃんを追い回すんじゃねぇぞ?」

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