野良猫のお仕置きは・2


「僕はなにもしてないよ。今回の件にはノータッチなんだから」

「そうなのか?」

「中森響に、余計なことはしないようにって、事前に忠告されたの。こっちは間宮に報復する気満々で準備してたのにさぁ。でも、余計なことをして目を付けられたくなかったから、今回は大人しく傍観してたんだ」

 報復する気で準備してたのか……。しかし、中森は間宮になにをしたんだ?

「トモ君は気にすることないよ。間宮の自業自得なんだから」

「どういうことだ?」

「以前から、マークはされてたんだ。でも、間宮や隊員たちの大半が一年だからってことで、風紀や生徒会親衛隊からの警戒は甘かったみたい。間宮はそこにつけ込んで、色々とやってたんだよ。トモ君への制裁がきっかけで調べてみたら出るわ出るわ」

 みんな絶句したんじゃない?、と佐久間は溜息をついた。どうやら、俺への制裁は氷山の一角だったようだ。

「間宮は斎藤って生徒の親衛隊長を務めてたんだけど、彼の補佐就任も間宮が裏で糸を引いてたみたいなんだよね。それに、斎藤が来年度の役員に選ばれるためにも、邪魔だと思われる補佐を襲わせたりしてさ。まあ、返り討ちにあったらしいけどね」

「なんで、そんなことを?」

「斎藤を役員に据えて、自分は生徒会の親衛隊隊長として権力を振るいたかったんじゃない?個人の親衛隊とは、規模も影響力もぜんぜん違うから。本人も他の隊員に、そう仄めかしてたらしいし」

 佐久間はそう言ったあと、新井の分のババロアに取りかかった。そして、新井は佐久間の口元をティッシュで拭いてやったり、コーヒーのお代わりを入れてやったりと、かいがいしく世話を焼いている。

 白崎のケツを追っ掛けていた頃とは別人のようだ。もしかして、こいつら食堂でもこうなのか?

「それらを総合したら、退学は当然って結果になるんだけど……中森響はそれじゃあ許せなかったみたいでね。風紀が動く前にあいつがやってきた犯罪行為を、証拠つきで、間宮の実家だけじゃなく親類関係全部に送りつけたんだよ」

「それで自主退学か」

「学園側としても、退学者を出すのは望ましくないからね。実家からの申し出は受理されると思うよ」

 ちなみに、間宮の制裁に手を貸した生徒たちも同様の目に遭ったらしい。今回だけではなく、以前から間宮に金銭で雇われ暴力行為を働いていたそうだ。

 それらのことを、中森はこの短期間で成し遂げたというのか。もしかして、嬉しそうだったのはそのせいか?

「まあ、でも今回のことが他の親衛隊への抑止力にもなるから、学園祭は考えてたよりも楽かもねー」

「面倒をかけるな」

「お礼はトモ君のご飯でいいよ!それに、チワワちゃんたちとの親衛隊ごっこも楽しいしー」

 隊長って呼ばれる度に萌えているようだ。よかったな。新井はちょっと面白くなさそうだが。嫉妬か。嫉妬なのか。




 ――学園祭まであと少し。

 未だに葛城を狙う者の正体は明らかになっていない。そして、麻紀の小説を信じるならば、学園祭で白崎は危機に直面することになる。

 むろん筋書き通りに進めば、それは解決されるだろう。しかし、物語は“俺”というイレギュラーによって形を変えてしまった。

 それがどう影響するのか。

 何事もなければいいのだが、胸に巣食い続ける不安は消えそうにもなかった。




第六章・了


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