野良猫のお仕置きは・1


 部屋に帰ると、腐男子が一匹狼の膝を枕にうたた寝中だった。

「……悪い。邪魔したな」

「ち、ちちちち違うっす!」

 慌てたように首を振るが、佐久間を気遣ってか動くに動けないらしい。わたわたと腕を上げ下げしている。だが、俺は見たぞ。お前が労わるように佐久間の髪を撫でていたところを。

「落ち着け。佐久間が起きるぞ」

「……すんません」

 俺は鞄を部屋に置いて、普段着に着替えてからリビングに戻った。時刻は夜の八時すぎ。夕食は生徒会室で済ませてある(厨房に予約しておくとお弁当を作ってもらえる)。

 けっこう多めに持って行った試作品は、すべてきれいに役員たちの腹に収まった。食べ盛りの胃は最強だ。

 しかし、それに味を占めたのか、全員に学園祭当日は遊びに行くからと言われてしまい、俺はいまさらながらに生徒会に入ったことを後悔した。そういえば、俺はどんな動物に扮するんだ……?

「夕飯は?」

「あ、まだです。話してる途中で、こいつが寝ちまったんで」

「あー、じゃあ簡単に作るから食ってけ」

 食堂は九時までやってるけど、八時を過ぎると運動部の奴らが大挙して押しかけるんだよな。席はあるが、けっこう待たされることになる。運動部の奴らは、かなりの量を注文するからな。

「いいんすか?」

「ああ。あり合わせだけどな」

 エプロンをつけて冷蔵庫を覗き込む。賞味期限の長いものしかない。最近は料理してなかったからな……甘いのは大量に作ったけど。

「スパゲッティとスープでいいか」

 スパゲッティを茹でている間に、トマト缶をあけてソース作りをする。といっても、タマネギのみじん切りと混ぜ、コンソメと塩コショウで味を調えるだけだが。ついでにスライスチーズがあったので、細かく千切って投入。

 続いて、冷凍庫からスープ用に下ごしらえしておいたカット野菜を取り出す。朝に便利なんだよな。それを沸騰したお湯に入れて、コンソメと塩コショウも投入。

 仕上げに卵を溶かし入れて、軽く煮立ったら火を止めごま油で香り付けすればできあがり。

 茹だったスパゲッティはフライパンのソースと絡めて、こっちも完成。どっちも多めに作ったから、たぶん間に合うはずだ。

「……うー、なんかぁ、いい匂いがするぅー」

 匂いにつられて佐久間が起きたようだ。料理を運べば、「トモ君の手料理だー!」と歓声をあげた。

 そして、よほど腹が減っていたのだろう。二人は黙々と飯を平らげ、満足げに食後のコーヒーをすすっている。

「ふぁ〜、生き返ったぁ〜」

「ずいぶんと忙しいみたいだな」

「んー、学園祭が近いからね」と、佐久間は試食品のババロアを頬張りながら言った。新井は教室で嫌というほど味見をさせられているので、無言で自分のババロアを佐久間に押しやった。いや、これはこいつなりのアピールなのか?

「あ、そういえば間宮が自主退学することになったから」

「……自主退学?」

 さりげなく告げられた言葉に、俺は思わず訊き返してしまった。

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