獅子VS黒豹


 俺は精神年齢が上なこともあって、どちらかといえば温厚だと思う。だが、そんな自分でもこれにはさすがに怒りを覚えた。俺はにっこりと、それはもうにこやかな笑みを浮かべ、

「――三人とも。僕の大切な友達を苛めないでくれる?」

 と言った。本当は、双子と中森の頭に拳骨を食らわせたいくらいだが、さすがにそれは憚られる。笑みを深めれば、双子と中森は顔を青ざめさせた。

「今回のことは、僕の軽率な行動が招いたものだから。佐久間君や親衛隊の人たちを責めないでほしい」

 きっちりと言っておかないと、俺の見てないところで佐久間や親衛隊の生徒たちに嫌味を言いかねないからな。

 しかし、なぜこいつらにここまで気に入られたのかがわからない。俺としては特別なことはせず、ただ自然体(猫は被っているが)で接しただけなのだが。嫌ってくれたら、性格が合わないことを理由に生徒会を辞められるのに。

「渡部の言う通りだ。お前たちは言い過ぎだ」

 話に入ってきた葛城は、三人に咎めるような眼差しを向けた。中森と双子はばつが悪そうに顔を俯かせる。そして、中森たちに代わり、葛城が「嫌な思いをさせて悪かったね」と、佐久間に謝罪した。

「いえ。力不足だったのは事実ですから」

 佐久間は硬い表情で首を横に振る。「これからに期待しているよ」と告げた葛城は、続いて椅子に座っている西園寺へと顔を向けた。……なんか、ものすごく嫌な予感が。

「そもそも、風紀がちゃんと活動していれば、制裁自体を未然に防げたはずですよね。いったい、風紀はなにをしているんですか?」

「あ゛?だから、未遂だって言ってんだろうが。会長様は耳が遠いのか、ん?」

「未遂?顔の怪我が見えないんですか?西園寺先輩は目が悪いんですね」

「生憎と、てめぇの憎たらしい顔がよーく見えるぜ。文句ならこっちもある。渡部に特定保護対象となったことを伝えろって言ったはずだよなァ?忘れたとは言わせねぇぞ」

「それについて、こちらもきっちりとお断りしたはずですよね?生徒会の親衛隊に助力を仰ぐから、余計なことはしないでほしい、と。風紀まで渡部にかかわると、余計に不満を抱く生徒たちを煽りかねません」

「じゃあ、なんでこいつは制裁に遭ってんだろうなァ?」

「本人も言っていたでしょう。こちらもまさか単独で行動するとは思わなかったんですよ。ですが、ご心配なく。これからは、けっして目を放さないようにしますから」

「それじゃあ、手間がかかって大変だろう。うちで引き取ってやるよ」

「ご心配なく。渡部は貴重な戦力ですから、それでもお釣りがくるくらいですよ」

 帰りたい。切実に帰りたい。っていうか、俺は生徒会も風紀も嫌だよ。一生徒でいさせてほしい。

 空調はきいているはずなのに、二人のせいで極寒の地となってしまった風紀室では、運悪く居合わせた風紀委員たちがかっちんこっちんに固まっている。不憫な。

 一部の鋼の心臓を持つ者たち(生徒会の面々と、風紀では澤口や神崎、白崎くらいだが)は、慣れているのか面白そうに自分たちのトップによる舌戦を眺めていた。

 唯一、佐久間だけが誰にも気付かれないように悶えていた。「トモ君の取り合いハァハァ!だがあえて言わせてもらおう喧嘩ップル万歳と!!」と聞こえてきたが、きっとあれだ。空耳だ。というかお前、さっきまでの神妙な態度はどうした。

 しばらくして、不毛な舌戦を納めたのは、若槻と澤口だった。それぞれ双方のトップを諌め、澤口が「渡部君を部屋に帰してあげたいんだけど」と言ったことで、俺はようやく息苦しい空間から解放された。

 仕事はまだ残っていたが、「気にせず、部屋で休むといい」という葛城の言葉にありがたく頷かせてもらう。妙に疲れてしまい、今は早く自室で休みたかった。

 しかし、部屋に戻った俺は、佐久間だけでなく寮で待っていた新井にもみっちりと説教を受けるはめになった。親衛隊の方は、新井が対処してくれていたようだ。

 さらには、俺が制裁を受けたという情報を耳にしたクラスメイトや、筒井をはじめとする茶道部のメンバーからも連絡がひっきりなしに入り、その対応に忙殺されることになった。




 だから、俺は気付けなかった。風紀室で別れた白崎の様子がおかしかったことに。ずっと物言いたげな視線を向けられていたことに――。

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