奴らが来た!・2
「もうほんとだよ。いきなり神埼先輩が会議室に入ってきたかと思えば、双子ちゃんたちが作成した書類を持ってるし。俺たちに小声で、“渡部君が制裁に遭いました。会議が終わったら風紀室に来てください”って、とんでもないことをさらりと告げてくしさー。危うく、全員で会議室から飛び出すとこだったよ」
にこにことしているが、中森の目は笑っていなかった。しかし、神埼。伝えたとは言っていたが、それではあまりにも端折りすぎではないだろうか。
せめて、(頬は叩かれたが)未遂ですとか、目立った怪我はありませんとか、俺の安否に関する情報を伝えてほしい。
「少しは配慮してくれてもいいんじゃないかい?」
葛城はそう言って、神埼を睨みつけた。ちなみに、葛城は風紀室ということもあって猫被りモードらしい。
「会議中でしたので、最小限に留めただけです」
「それでも、もう少し言いようが――」
「「そうだよー」」
そこで、未だ俺にしがみついていた双子が声をあげる。
「レンレン先輩なんて、会議の最後に質問で挙手した生徒を睨みつけてたしー」
「きょーちゃんも、わざとらしく舌打ちしてたしー」
「シロ先輩は無言で書類を片付けてー」
「すーちゃん先輩は笑顔で机を蹴りあげてた!」
……事情を知らない生徒たちは、さぞかし恐ろしい思いをしたに違いない。というか葛城。一般生徒を睨みつけたら、猫被りがばれるぞ。狩谷は備品を蹴るな。
「僕も危うく、ここに来る途中で話しかけてきた教師の横っ面を殴りつけるところだったよ」
若槻も、笑顔で言う台詞じゃないだろ。それを聞いていた澤口は、引き攣った笑みで「だ、大事にされてるんだな」と告げた。神埼は悪びれた様子もなく、「以後、気をつけます」と頷いただけだった。
「未遂だったんだな?」
葛城がこちらを案じるように問いかけてきた。
「はい。ご心配をおかけしてすみませんでした」
「それはいい。だが、もう二度と軽はずみな行動はするな」
「はい」
神妙に頷いたところで、眉間にしわを寄せていた中森が声をあげた。
「見慣れない子がいると思ったら、トモのとこの隊長さんじゃん」
中森の視線は、澤口の隣りに立つ佐久間へと向けられている。不機嫌な表情に、俺は嫌な予感を覚えた。
「有能って噂だったのにねぇ。もっと使える奴に隊長の座を譲った方がいいんじゃない?」
冷ややかな眼差しと口調に、佐久間の体が微かに震えた。しかし、佐久間は顔を背けることはせず、耐えるように中森を見返す。それに追従したのは、未だ俺に抱きついていた双子だった。
「僕らの親衛隊にトモちゃんの警護を頼んどくよ!」
「そっちの方が、よっぽど安心だよねー」
邪気のない笑みを浮かべつつも、双子の佐久間へと向けられた視線は冷たい。感情的になって、つい佐久間を批難してしまった白崎が可愛く見えるほどだ。
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